起立性調節障害は小学校高学年に始まる思春期から高校生の育ち盛りの子どもたちがかかりやすい、自律神経の乱れから立ちくらみやめまい、低血圧などを起こす病気で、午前中に症状が重いという特徴があります。起立性調節障害を治療する方法をご紹介します。

起立性調節障害はすぐには治らない

まずはじめに理解しなくてはならないのが、起立性調節障害という病気は非常に治りにくい病気であるということです。例えば「この薬を飲んだだけで、病状が完治する」という特効薬のようなものはありません。

治療には数ヶ月以上の期間を要することも珍しくなく、また季節によっても病状が変わることから、秋になって病状が良くなったと思ったら、季節が変わって春頃にまた悪化しだすというケースもよく起こります。

起立性調節障害は治療が難しく、すぐには治らないということを理解した上で、ゆっくりと根気よく、病気と向き合っていく必要があるのです。

自律神経系のバランスを調節する

起立性調節障害が起こる原因の一つは、自律神経系のバランスが乱れていることにあります。

自律神経系は交感神経系と副交感神経系からなります。起立性調節障害の場合は、交感神経系の活動レベルの低下によって、低血圧や貧血などの症状が現れやすいのが特徴です。

交感神経系の改善

自律神経系のバランスを調節することで、起立性調節障害をの症状を治療するには、低下してしまっている交感神経の活動レベルを上げて上げる必要があります。

交感神経系の働きをよくするには、以下のような方法が有効です。

腹式呼吸
普段の無意識の呼吸は、胸の筋肉を使った胸式呼吸です。お腹の筋肉を意識した腹式呼吸をすると、交感神経系を刺激する脳内の神経伝達物質であるセロトニンの分泌が活性化され、交感神経系の働きを活性化する作用が期待できます。(セロトニン呼吸法という呼吸法もあります。)

起立性調節障害の症状で立ちくらみやめまいがする場合は、起き上がらずにベッドやソファで横になったままで腹式呼吸をしても一定の効果はあります。

冷たい水を飲む
水に限らず、体への刺激は脳を覚醒させて交感神経系を興奮させるシグナルになります。朝目覚めたときに、冷たい水を一杯飲む習慣を作ると、それが交感神経系への刺激になります。

起立性調節障害の症状の一つでもある低血圧を起こす要因の一つは、体の水分量が減っているために循環する血液量も減少している場合があります。夜寝ている間に汗として排出された体の水分補給をするという意味でも、朝冷たい水を飲むのは有効です。

また、水を飲むことで胃腸への刺激にもなり、腸がぜん動運動を起こしやすくなり、便通を良くする効果も期待できます。

自律神経系の働きが乱れている場合、便通にも便秘や下痢のような異常が起こることが少なくないため、水を飲んで腸へ刺激を送ることは、シンプルですが案外有効な改善策になり得ます。

特に起立性調節障害を起こしやすい女性は、元々便秘を起こしやすい体質の人が多いため、一石二鳥の改善法と言えます。

歩行など軽い運動
運動は起立性調節障害を治療する上でも重要です。運動をすると交感神経系が興奮します。運動を習慣化することで、交感神経系の活動レベルを上げることができます。

特に、下半身の運動は、起立性調節障害の人にとって不足しがちな、血液循環のための筋肉のポンプ機能を改善する効果も期待できます。

軽い歩行、スクワットなどリズミカルな運動は、交感神経系を刺激する、脳内のセロトニン神経を鍛えるのにも効果があるため、相乗効果が期待できます。

ただし、起立性調節障害の場合、立ち上がったり外に出かけるのが困難な場合もありますので、これは病状と相談しながら、ということになります。

午前中に動くことが困難な場合は、午後や夕方になってから軽く歩いてみることから始めると良いかもしれません。

尚、運動する場合は必ずこまめに水分を補給するようにしましょう。

ストレッチ
家の中で出来るストレッチも、起立性調節障害の治療に有効な運動の一つです。ストレッチは全身の血流を改善する効果が期待できます。自律神経系の働きに乱れが生じている場合、首や肩などにコリを感じる症状が現れることが珍しくありませんが、これは血流が悪化していることで起こるためです。

ストレッチをすることで、首や肩の筋肉を解きほぐし、血流の悪化を改善する効果が期待できます。

日光浴
起立性調節障害を治療する方法として、日光浴は最も手軽な方法の一つかもしれません。

ベッドに入って横になったままでも、カーテンを開けて太陽光を部屋に取り込むことで、網膜から光の刺激が脳へと届いて、交感神経系を刺激することができます。

光の刺激は、自律神経の乱れの乱れを改善するのに非常に有効な手段であり、起立性調節障害以外に、睡眠障害やうつ病など幅広い病気の治療として、高照度光療法などの光の刺激を用いた治療法があります。

部屋の向きや、その他何らかの理由で日光浴が難しい場合は、光目覚ましがお勧めです。
詳しくは『起立性調節障害には光目覚まし時計を』をご覧ください。

生活習慣の改善

起立性調節障害の治療には、生活習慣の改善が欠かせません。起立性調節障害の場合、午前中に起きて活動することが困難なことが多く、普通の人よりも生活リズムが遅い時間に後退しがちです。

一般的な学校や仕事は、朝起きて出かける必要があるため、活動が可能になる時間が遅い起立性調節障害の人の場合は、学校は休んだり遅刻しがちで、普通の仕事に就くこともできず、それが原因で引きこもりになったりすることが多々あります。

生活習慣を改善する方法は様々ですが、『同じ時間に起きて同じ時間に寝る』ということを、長い時間をかけて少しずつ早い時間にずらしていくことが有効です。

また、起きる時間と眠る時間だけでなく、食事の時間、トイレの時間、勉強する時間、風呂にはいる時間など、一日を通してのスケジュールも出来る限り規則正しく、計画を立てて行動することで、生活習慣を改善しやすくなります。

狂った体内時計を元に戻す
生活習慣を改善することで、遅寝遅起により狂ってしまった体内時計を元に戻す効果が期待できます。

実は、そもそも自律神経系が乱れてしまう原因のひとつに、体内時計の乱れがあるのです。

交感神経系が働くべきときに働かないから起きられない、副交感神経系が働かないから眠たくならない。こうした自律神経系の働きの乱れは、体内時計が時差ボケを起こしているために起こっている場合があり、生活習慣を改善することは、狂っていた体内時計を治すことにも繋がります。

理学療法

いわゆる東洋医学によるマッサージ、ツボ、整体、鍼などは、自律神経の乱れの乱れを改善する上で有効な場合があります。

こうした理学療法によるマッサージやツボなどの刺激は、血流の改善、神経系の活性化、骨の歪みの改善、体を温め低体温の改善などの効果があると言われています。人によって効果がない場合ももちろんありますが、クリニックに通う気力がある場合はお試しいただく価値はあるでしょう。

薬物治療

起立性調節障害の治療には、漢方薬や昇圧剤のような治療薬が用いられることがあり、起立性調節障害による、つらい体の症状を改善する効果を得られます。

しかし、起立性調節障害は薬だけで症状を改善させるのは難しく、真の意味で病気を治療するには、病気の根本的な原因となっている自律神経系の乱れ、体内時計の乱れ、ストレス、筋肉の不足など、身体・精神的な問題を改善していく必要があります。

こうした根本原因は冒頭で紹介したとおり、いずれもすぐには改善しないものばかりです。また、思春期に発症しやすい起立性調節障害ですが、思春期という時期柄もあり、病状の治療と合わせて心のケアをすることが、長期的な病気の治療に役立つでしょう。

心のケアも重要

起立性調節障害の根本原因でもある自律神経系の乱れ、いわゆる自律神経失調症は、精神的なストレスや、生活上の様々な問題によって、症状悪化が助長されている場合があります。

また、起立性調節障害のように、朝起きられないような病気の場合、自分で好まざると、病気を発症することが不登校や引き篭もりのきっかけになり、病気を治療して行く過程で、生活習慣を改善してそうした生活からぬけ出すためにも、病気の原因や特徴を知り、本人に寄り添って心のケアを行うことが何よりも大切です。

また、症状の改善は昇圧剤のような治療薬により一時的には改善できても、例えば学校でのいじめによりストレスのようなものが病気を発症する原因担っている場合には、そうしたストレス環境から開放してあげることが継続的な病気の改善に必要不可欠です。

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