アドレナリンはストレスに反応して分泌されます。本来、生物にとってのストレスとは、飢餓や外敵からの脅威など、生命の危機に関わるものが多く、アドレナリンの本来の働きも、生命の危機に瀕した際に、なんとか生き残るために分泌される緊急シグナルです。人間にとってのストレスとは、他の生物のそれとは全く異なる意味を持っています。

現代人にとってのストレス

人間も大昔の生活の中では、頻繁に生命の危機を感じることがありましたが、文明が発達した現代人にとってのストレスは様変わりし、私達が感じるストレスは、人間関係や仕事、勉強、貧困などが原因のものが多くなっています。

そんな現代でも、ストレスを受けるとアドレナリンは分泌されます。現代人にとってのアドレナリンは、イライラ、不安、恐怖、焦り、緊張など、ネガティブな感情を引き起こす不要な物質であり、また、興奮して怒ったり、暴れるときに分泌されるなど、決して良いイメージのある物質ではないのかもしれません。

アドレナリンの活用

アドレナリンの本質は、ストレスに抗うことです。野生動物のように命の危機を感じるような状況はほとんどありませんが、人間社会には大小様々で多種多様なストレスが満ち溢れています。そうしたストレスに対しても、アドレナリンの効果や作用をうまく利用すると、生活のあらゆる面にプラスの効果を生み出すことができます。

運動・スポーツ
肉体を酷使する運動やスポーツは、それそのものがストレスであり、運動をすることでアドレナリンが分泌されます。そして、アドレナリンの持つ筋肉の増強や肉体への酸素供給量増加の作用を利用すると、運動やスポーツにおいてより良いパフォーマンスを発揮できるようになります。

運動時にアドレナリンが分泌されると、血圧や呼吸は上昇し、全身への酸素の供給量は増加して、持久力が向上します。また、筋肉も肥大し、通常以上のパワーが引き出されます。筋肉の肥大による効果は、マラソンなどの有酸素運動よりも、短距離走やウエイトリフティングのような無酸素運動で特に有効です。

スポーツ選手が競技の前に大声を出したり、顔を強く叩いたりしているのは、意図してアドレナリンを分泌させて、パフォーマンスを向上させるためです。 また、コーチや監督などの立場では、試合前に選手をわざと強く叱咤激励することで、選手のアドレナリン分泌を促進させることも、よく用いられる手法です。

勉強・学習
アドレナリンは、脳を覚醒させて、集中力注意力判断力を高める作用があります。学校で授業を受けているとき、テストや受験に臨むとき、ぼーっとして臨むのと、集中して臨むのでは結果は全く変わってきます。テスト勉強をギリギリまでやらないタイプの子も、追い込まれるとアドレナリンが分泌して、思わぬ集中力を発揮出来ることがあるのです。

仕事
常に結果や数字が求められるビジネスの世界では、就業時間そのものがストレスの塊です。そうしたストレスで結果を残すためには、ストレスに打ち勝つためにアドレナリンを分泌させて、集中力判断力を高める必要があります。逆に言えば、ビジネスの成功者は、アドレナリンの分泌を適切に管理出来るような人であるとも言えます。

ダイエット
アドレナリンには、血糖値を上昇させることで食欲を抑制する効果があります。アドレナリンが分泌されると、肝臓での糖新生が促進され、肝臓でグリコーゲンの分解されて血糖値が上昇します。また、脂肪細胞では脂肪の分解が進み、血中へ放出します。この効果をすることと、食欲を抑えつつ脂肪の燃焼を促進させるダイエット効果が期待できます。

また、アドレナリンが運動によって分泌されるという特性を活かせば、運動によるダイエット効果も相まって、さらに効果が高まります。

ただし、極度の低血糖状態は心身への負担が非常に大きいため、適度の栄養補給は必要です。

アドレナリンの分泌は長く続かない

本来アドレナリンの分泌は、生命の危機のような状況を緊急回避するためのものです。そのため、ストレスによるアドレナリンの分泌はあまり長くは持続せず、長くても2時間程度だそうです。例えばボクシングや格闘技の試合中、骨折をしたまま戦い続ける選手が時々いますが、これもアドレナリンによる痛覚の遮断効果によるものです。試合中は強い興奮により、アドレナリンがバンバン分泌されますが、試合後にアドレナリンの分泌が止まると、急激に痛みが襲ってくるのです。

ストレスが続くと枯渇することも

極度のストレスが長く続く状況、例えば、常に生命の危機を感じる大災害や戦争のような場合で、絶えずアドレナリンが分泌される状態が続くと、やがてアドレナリンの原料が不足して、終いにはアドレナリンの分泌が枯渇してしまうことがあります。

アドレナリンが枯渇すると、もはやストレスに抗うことはできず、無気力、無関心、感情鈍麻など極度の抑うつ症状が生じ、戦ったり逃げたりすることはできなくなります。戦争を体験した兵士や、震災を被災した人々がPTSD(心的外傷後ストレス障害)やASD(急性ストレス障害)を発症するのも、こうした強いストレスを受けたことが原因で、以後のストレスにうまく対応することができなくなるためです。


このコーナーでは、アドレナリンについての話題を全3ページで紹介しています。

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