人は、人生の1/3から1/4の時間を眠って過ごします。
それだけ睡眠は人にとって重要であり、単なる睡眠不足にも様々な悪影響があります。
ましてや、不眠症などの睡眠障害によって、十分な睡眠をとることができなくなってしまったら、人の精神や肉体にはどのような影響が生じて、どのような病気にかかりやすくなるのか、ご紹介します。

老化の促進

皮膚や骨、筋肉などの体組織の修復や再生を担う『成長ホルモン』は睡眠時に特に多く分泌されています。(大人も子供も) 慢性的に睡眠が不足すると成長ホルモンが分泌されにくくなることから、老化が進行しやすく、肌のシワやたるみ、シミや肝斑、ほうれい線が深くなるなど、顔の老化原因にもなります。

寿命が短くなる

アメリカのカリフォルニア大学の統計調査では、平均眠時間が6.5~7.4時間程度の人の死亡率がもっとも低く、それ以上でもそれ以下でも死亡率は高くなったそうです。
睡眠と寿命の関係には様々な要因が考えられますが、睡眠不足から来る老化の促進、ストレスの増加、事故に遭う確率の増加、免疫力の低下、さらに下で紹介するような疾患などに罹りやすいということが寿命に関わっていると考えられます。

高血圧

不眠状態では交感神経系が休まらないため、血圧が下がりにくくなります。
その結果、高血圧になりやすくなります。
また、逆に高血圧の人は不眠症になりやすいというデータもあり、不眠症と高血圧には相互関係があることが明らかになっています。
高血圧になると心血管の疾患につながりやすく、心筋梗塞や脳梗塞といった生活習慣病にもかかりやすくなります。

骨と筋肉の減少・肥満

不眠状態ではグレリンという食欲を増進させるホルモンが分泌されやすくなり、逆にレプチンという食欲を抑えるホルモンは分泌されにくくなり、食欲が増すことから過食になりやすい傾向があります。

また、睡眠中に多く分泌される成長ホルモンには、骨や筋肉の再生と修復作用、脂肪の分解作用があるため、不眠症で睡眠が十分に取れないと、成長ホルモンの分泌量の減り、筋肉の量が減って基礎代謝が下がり、脂肪が分解されずに溜まりやすくなり、その結果、肥満体型になりやすくなります。

さらに、不眠によって骨の修復と再生が十分に行われないと、骨密度が下がり骨粗鬆症(こつそしょうしょう)になりやすくなります。(骨粗鬆症は、歳を取れば取るほど、また男性よりも女性のほうがなりやすい病気です。)

肥満は、糖尿病を始め、様々な生活習慣病の原因になります。

糖尿病

不眠症になると肥満になりやすくなりますが、肥満状態ではインスリン抵抗性が高くなるため、血糖値が高くなりやすく、高血糖状態が続くと、やがて糖尿病を発症する恐れがあります。
実際、不眠症の人は、不眠症でない人に比べて糖尿病の発症リスクが2~3倍になるとされています。

ストレス耐性の低下

睡眠にはストレスの解消効果があるため、不眠症になるとストレスがうまく解消出来なくなります。
また、ストレスによりセロトニンが不足しやすくなるため、ノルアドレナリンドーパミンが過剰になりやすくなり、ちょっとした事でくよくよして落ち込んだり、すぐキレて怒りっぽくなったりと、ストレスに対して過剰な反応をしやすくなります。

うつ病

不眠の原因の一つとして、セロトニンメラトニンの分泌不足や乱れが挙げられます。
うつ病の代表的な症状に脳内物質セロトニンの欠乏状態が挙げられます。
セロトニンは睡眠ホルモンであるメラトニンが合成するのに必要な材料となっているため、セロトニン足りないとメラトニンも不足して不眠状態を引き起こします。
不眠症の人は、セロトニン神経が衰弱している状態であることが多く、うつ病を発症している割合も高いとされています。

免疫力の低下

本来睡眠時には、骨髄では白血球、赤血球、リンパ液などが生産され、血行が促進され、体が持つ病気や病原体への抵抗力や免疫力を高める働きがあります。
睡眠中に分泌される成長ホルモンには、体組織の修復・再生、代謝を行う働きがあり、古くなったり傷ついた細胞などを直してくれます。
睡眠ホルモンのメラトニンには、細胞の抗酸化作用、NK細胞の活性作用があります。

不眠になると、こうした免疫効果が損なわれてしまい、その結果、ガンや動脈硬化、生活習慣病、アルツハイマー病やパーキンソン病など、様々な疾病にかかりやすくなるとされています。

収入の低下

これは不眠症が直接関係するわけでは無く、あくまでも結果のお話です。
睡眠不足や不眠症の状態では、意欲の低下、集中力の低下、コミュニケーション能力や学習能力の低下など、様々な面に悪影響が生じます。

こうした能力の低下は、学生時代であれば学歴に影響が出ることが考えられます。
日本は学歴社会ですから、学歴が悪いほうが、社会に出たあとの出世や収入に影響が出る可能性が高くなります。

また、社会人の睡眠不足は、仕事への意欲や業務への集中力、対人コミュニケーション力が損なわれるため、欠勤や遅刻や早退が増え、作業効率が悪いため業績を残しにくくなります。
その結果、出世や収入に悪影響が出ることが容易に想像できます。
そもそも、深刻な不眠になると、多くの場合はうつ病などの症状が現れるため、まともに就業出来ないことも少なくなく、無収入にもなりかねません。

実際、いくつかのネット調査では、睡眠満足度と年収において、満足度が高い人ほど収入も高くなる傾向があるという結果が出ています。

腸内環境の悪化

睡眠中に分泌される成長ホルモンは、体中の細胞組織の再生や修復を行ってくれているホルモンです。
腸内の粘膜組織や腸壁といった細胞組織の新陳代謝サイクルは、体の中でも最も活発で早く、およそ3日程度(皮膚の場合は28日程度とされる)で剥がれ落ちて新しい細胞に生まれ変わるとされており、不眠によって睡眠が不足すると、成長ホルモンの分泌が減るため、腸内の細胞組織の新陳代謝のサイクルにも悪影響が生じます。

その結果、腸内環境が悪化して腸壁バリアが損なわれると、腸が担っている役割である食べ物の消化や吸収、病原菌やウィルスに対する免疫力といった機能が低下してしまうのです。

詳しくは『腸内環境が悪化すると』をご覧ください。

幸福度の低下

眠れない、ということはそれ自体がストレスになり得て、幸福度を下げます。
収入は生活の基盤なので、不眠によって仕事に支障が生じるなどして、収入が低くなればなるほど生活は苦しくなり、幸福ではないと感じるでしょう。
また、健康な身体も幸福を感じる上では、必要不可欠ですが、不眠になればなるほど、健康を損なう可能性が高くなるため、その結果、幸福度は下がると言えます。

忙しい現代人にとって、睡眠は軽視されがちですが、人はその一生の1/3から1/4程度は睡眠をして過ごします。
本来、睡眠はそれだけ重要なものなのです。

睡眠不足が続く状況や、何らかの不眠の症状を感じた時は、決して軽く考えずに、睡眠の質を高める努力をしてみたり、自分ではどうにもならないと感じたら、迷わず医師の診断を受けましょう。

尚、短期的な睡眠不足による悪影響であっても、心身には様々な影響が生じることがありますので、要注意です。


★次のページでは『不眠症の対策方法』をご紹介します。