人は朝起きて、夜になると眠ります。朝起きて夜眠るという生活リズムは人類が長い年月を掛けて築いてきた習性です。人類の遺伝子に刻み込まれたこの習性を「体内時計」という言葉で置き換えることができます。体内時計は人体の様々な生体機能の調節を行なっていて、眠りや覚醒以外にも体温や血圧の維持、ホルモンの分泌等、人体の活動や生理現象に重要な作用があります。
人の体内時計は24時間ではない?
人の体内時計は、地球の自転と同じく24時間であると考えられてきました。
私たちは時間の経過(地球の自転)に合わせて「毎日大体同じ時間に寝て、大体同じ時間に起きる」ことができるためです。
しかし、ある実験で被験体となる人や動物を、窓などがなく明暗の変化がない室内環境で、時計など時間の経過がわかるものを置かない状態で隔離すると、体内時計に狂いが生じることが分かりました。
ズレの幅は個体によって異なるものの、ズレが大きな人でおおよそ一時間前後(23時間~25時間程度)はズレるということが分かりました。
つまり、地球の自転周期(24時間周期、朝と夜の交代周期でもある)と人の体内時計には、人によっては一時間程度のズレがあるという事です。
ところが、不思議なことに私達は、多くの場合、「毎日大体同じ時間に寝て、大体同じ時間に起きる」という、地球の自転と同調した生活を当たり前のように送っています。
この体内時計のズレの理由については諸説あるようですが、ともあれ、通常、私たちは体内時計のズレを知らず知らずのうちに調節して24時間で生活できているのです。
逆に、この知らず知らずの調節ができなくなると、色々不都合な事(不眠症など)が起こると言えるため、この体内時計の自動調節の謎を理解しておく必要があります。
体内時計を調整する神経伝達物質セロトニン
体内時計のズレを調整するのに大きく関与しているのが、脳内の神経伝達物質『セロトニン』と睡眠ホルモン『メラトニン』であると言われています。
セロトニンは、朝覚醒時に自律神経に働きかけ、脳を覚醒させ、交感神経を刺激して、体内時計の一時間のズレをリセットしてくれるのです。
さらに、交感神経が刺激されることで、人の体は意欲的・活発に活動することができるようになります。
セロトニンは日中、この交感神経を刺激し体の活動状態を保ちます。
時間が経過し、夕方から夜に掛けて次第にセロトニンは働きを弱めます。
すると今度は副交感神経が優位になり、体が沈静化してきて、眠りに就く準備をします。
この時分泌され始めるのが、メラトニンという睡眠ホルモンです。
メラトニンは、セロトニンと相対して分泌される性質があり、セロトニンから生合成されています。
こうした自律神経、交換神経・副交換神経等に働きかけ、一日の生活リズムを作り出しているのが、セロトニンなのです。
では、このセロトニンが何らかの理由で働かなくなってしまうとどうなるでしょう?
体内時計がうまく働かなければ、最大で一時間程度のズレが生じますから、生活リズムが崩れてしまうことは容易に想像できると思います。
しかし、セロトニンの働きが弱くなることで、他にも体調に様々な変化が生じると考えられています。
やる気が出ない、集中力がなく、怒りっぽくなる、疲れやすい等、身体・精神状態に乱れが生じたり、症状がさらに悪化すれば、不眠症、うつ病などの精神疾患に陥ることもあると考えられています。
このようにセロトニンは、生体リズムを整える作用があるため、セロトニンが不足することで体内時計が狂い、メラトニンも分泌されにくくなり、不眠症が発症するなど、睡眠の質にも大きく関わりがある物質です。
セロトニンと太陽光
セロトニンが不足しないようにするには、どうすればよいでしょうか。
・明暗の変化がない室内環境に置かれる事で体内時計の周期が最大一時間程度狂う
・セロトニンは「朝」覚醒すると自律神経を刺激する
この二つの文に共通する要素とは「光」です。
古来より、光と言えば、太陽光が当てはまります。
人の体内時計と睡眠に大きな関わりのあるセロトニンの働きには太陽光が密接に関わっているのです。
→詳しくは「睡眠と太陽光」
photo credit: ‘Summit Camp’ – Glyder Fach, Snowdonia (license)
- 参考文献
- 厚生労働省 e-ヘルスネット – セロトニン
- 国際生命情報科学会誌 – セロトニン神経活性化の臨床的評価:脳波α2成分の発現
- NCBI – PMID:1752859
- NCBI – PMID:25108244
- Wikipedia – セロトニン