起立性調節障害は自律神経失調症の一種で、自律神経系の乱れが原因で起こる病気だと言われています。起立性調節障害が起こる原因となる自律神経系の特徴と、何故自律神経系の乱れが起こるのかなどをご紹介します。
目次
自律神経系とは
自律神経系という神経系は、簡単に表すと『自分の意志によらず働く神経』とでも言えるでしょうか。
人は生きる上で無意識のうちに、呼吸をし、胃や腸が食べ物を消化し、汗を掻き、体温調節をし、そして眠ります。こうした一連の動作は全て自分の意志や意識とは関係なく、生命維持のために自動的に行われています。
この無意識で自動的に行われる動作を司るのが自律神経系です。また、こうした無意識の動作を『不随意運動』と言います。
交感神経系と副交感神経系
自律神経系は、さらに交感神経系と副交感神経系の2つの神経系に大別されます。
▼交感神経系
人が運動で体を動かしたり、仕事や勉強で頭を使ったりするのを効率的に行うために働いている神経系です。
例えば、運動するときにはより多くの筋肉を使えるよう、筋肉に血液を沢山送ったり、仕事や勉強の集中力をますために、頭に酸素を沢山送るなどの働きを担っています。
交感神経系は人が活動する時間帯に活性化する特徴を持ち、多くの人は昼間に活動して夜眠りますので、この場合、交感神経系は昼間に活性化されます。
また、交感神経系は、時間帯を問わず、驚いたとき、恐怖を感じたとき、敵に遭遇したとき、命の危機に瀕したときなどに活性化されて、状況に対応するために心身を興奮させます。
交感神経系を表す言葉として、活動、興奮、集中、意欲、勤勉、怒り、などが当てはまるかと思います。
▼副交感神経系
副交感神経系は、交感神経系とは真逆の特徴を持つ神経系です。昼間働く交感神経系に対して、副交感神経系は夜になると活性化します。
副交感神経系が担うのは、ひところで言うと『心身の休息』です。副交感神経系が活性化すると、脳や体がリラックスして、休息モードになり、傷ついた細胞を修復したり、脳や体のストレスや疲れを癒やすと言った効果が発揮されます。
副交感神経系を表すのは、平静、癒やし、休息、安寧、記憶整理、回復、などの言葉が似合うでしょう。
自律神経系の働く時間帯
自律神経系を成す交感神経系と副交感神経系は、水と油、光と影の如く、交じり合うことはなく、いずれか一方が働いているときはもう一方は活動が制限されます。
日中活動している人の場合は、朝起きてから夜リラックスモードになるまでは交感神経系が活性化していて、脳や体の覚醒状態を保って、高いパフォーマンスを発揮できるようになっています。
夜になると、副交感神経系が次第に優位に働くようになり、体はリラックスモードになっていきます。リラックスモードの最たるものは御存知の通り『睡眠』で、副交感神経系は眠りを司る神経系とも言えます。
交感神経系と副交感神経系がそれぞれ活性化する時間帯は、その人の生活リズムによって形成される『体内時計』によってある程度コントロールされています。
毎晩22時に眠っている人は、だいたいその時間になると副交感神経系が働いて眠たくなりますし、毎朝6時に起きる人は、目覚まし時計を掛けなくても6時くらいになると脳が勝手に覚醒しだして、眠りが浅くなってきます。
自律神経系が乱れると
前置きが長くなりましたが、人の生活リズムや体内時計によってコントロールされている自律神経系が、何らかの原因で乱れると、交感神経系や副交感神経系は、本来働くべきときに働かなくなります。
交感神経系が働かないと、脳が覚醒しない、血圧が上がらずボーっとする、気力ややる気がでない、などの症状が現れます。副交感神経系が働かないと、眠たくならない、傷や病気が治らない、ストレスが解消されない、などの症状が現れます。
このような自律神経系の乱れのうち、特に慢性的に自律神経系が乱れた状態を自律神経失調症と呼びます。一度自律神経失調症になると、再び復調するのが難しい厄介な病気です。
起立性調節障害は、こうした自律神経系が乱れる自律神経失調症の一種です。
自律神経系が乱れる原因
起立性調節障害を引き起こす自律神経系の乱れは、主に以下のような事柄によって生じます。
ストレス
多くの場合で、ストレスは起立性調節障害の大敵です。脳がストレスを感じると、そのストレスに対抗するために、体内ではストレスホルモンと言われる様々な物質が分泌されます。ストレスホルモンは交感神経系を強く刺激します。
このストレスが一過性のもの、例えば道を歩いていたら車に轢かれそうになってびっくりしたとか、後ろからいきなり声を掛けられた、お化け屋敷が怖かった、と言った程度のものであれば、体にストレスが貯まることがないため、自律神経系を大きく乱すようなことにはなりません。
ところが、ストレスが慢性的なもの、例えば学校でのいじめ、仕事場でのパワハラ、失恋や別離、戦争や震災によるトラウマのようなものになると、体が常にストレスを感じ続けて、その間ストレスホルモンが分泌され続けて、交感神経系が常に興奮し続ける状態に陥ります。
こうした慢性的なストレスが、自律神経系を乱す大敵で、交感神経系が長期間興奮しっぱなしになることで、そのうち交感神経系が疲弊して、興奮することが出来ない状態になってしまうことで、自律神経系のバランスが崩れてしまうのです。
▼思春期の子どものストレス
起立性調節障害を起こしやすい思春期の子どもは、まさにこうした慢性的なストレスを抱えやすい年頃です。
思春期を迎えて、自我が芽生えたことによる周囲との衝突、外見の変化による戸惑い、陰湿化するいじめ、誰にも言えない悩み、など思春期特有のストレスが、ただでさえ未成熟な子どもたちの自律神経系を乱し、起立性調節障害のような病気が発症してしまうのです。
不規則な生活
不規則な生活と言うのは、毎日の起きる時間や眠る時間、日中の過ごし方など、生活リズムがばらばらな状態を言います。特に夜更かしをすると、本来、次の朝起きる時間も必然的に遅くなるはずですが、学校や仕事があるために、無理やりいつもと同じ時間に起きると、体は翌日無理をしなくてはなりません。
自律神経系は、規則正しい生活のもとで、決まった時間帯に交感神経系と副交感神経系が交互に機能する、という状態が望ましいため、働く時間がバラバラな状態が続けば続くほど、交感神経系や副交感神経系には負担がかかります。
人の勤務形態で言えば、24時間体制の工場で、(3交代制とかではなく)時間帯がまったくバラバラなシフト勤務を延々と続けさせられるようなもので、これでは自律神経系が疲弊します。
また、不規則な生活は、体の持つ体内時計にとっても大敵で、好きな時間に寝て好きな時間に起きるような生活を続けると、体内時計は狂って機能しなくなってしまい、体内時計が狂うことも自律神経系が乱れる原因となります。
現代では、大人の生活スタイルが多様化したため、子どもも小さいうちから親の生活に合わせて夜更かしする傾向があります。小さいうちからの生活リズムの乱れや睡眠時間の減少は、思春期に起立性調節障害のような病気を引き起こす一因担っていると考えられます。
睡眠不足
慢性的な睡眠不足になると、疲れやストレスが解消されないため、体が「もっと休みたい」という状態になります。すると、日中も眠たくボーっとしたり、やる気が起きない状態になります。
日中は本来、交感神経系が活性化するはずですが、こうした疲れが溜まった状態では、交感神経系は活性化せず、副交感神経系が働いてぼーっとしてしまうのです。
また、睡眠は自律神経系が乱れる最大の原因である『ストレス』を解消するための最も有効な手段です。睡眠が不足するということは、その分、ストレスの解消効果が損なわれることになるため、ストレスがたまりやすくなり、自律神経系が乱れやすい要因となるのです。
特に成長期にある子どもにとっては、睡眠不足による悪影響は計り知れません。詳しくは『睡眠不足の子どもに起こる悪影響』をご覧ください。
運動不足
運動をすると交感神経系が刺激されます。また、運動で疲れた後には、休息を取ることで副交感神経系が刺激されます。交感神経系と副交感神経系を適度に活性化させることで、自律神経系のへの刺激になっているのです。運動が不足すると、交感神経系への刺激が減ります。また肉体を使わない分、休息をとる必要性が減るため、副交感神経系も活性化されなくなり、どちらの神経系もメリハリ無く、刺激がない状態になります。
使われない機能はどんどん衰えてしまいますので、交感神経系も副交感神経系も、運動不足になると刺激を失ってしまい、機能が損なわれていき、自律神経系の働きが弱ってしまう原因となります。
偏った食事
人は生きるための栄養を食事から摂取しています。生きる上で必要な栄養素がありますが、これは言い換えれば人の細胞、血や肉になる成分です。
飽食の時代に生きる我々は、自由に好きなものを食べることができますが、その反面、好き嫌いやダイエットなどによって、嫌いなもの、太る原因になるようなものは摂取しない、という人も増えました。
体に必要な栄養素というものをきちんと理解した上で、好き嫌いやダイエットをするのは問題無いのですが、安易で根拠のないなダイエット法などに飛びついていると、体の血や肉になる栄養素さえ不足してしまうことがあります。
自律神経系も食事から得られる栄養素によって形成されています。5大栄養素のうち、いずれの栄養素が不足しても、体に思わぬ影響が出る可能性がありますので、栄養素は過不足なくバランスよく取りましょう。
まとめ
長々と起立性調節障害と自律神経系の関係について書きましたが、以下の要点だけ抑えてください。
- 起立性調節障害は自律神経系の乱れによって生じる病気です。
- 自律神経系はストレス、不規則な生活、睡眠不足、運動不足、偏った食事によって乱れやすくなります。
- 思春期の子どもたちはストレスを貯めやすく、これが起立性調節障害がさらに悪化する原因にもなります。
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