現代人の多くは、眠りについて常に何らかのトラブルを抱えています。あるアンケートでは、日本人回答者の平均睡眠時間は6.5時間で、他の先進国よりも平均30分ほど短く、さらに日本人回答者の3割以上が「眠りの質」に不満を感じていると答えたと言います。その他の多くの調査でも、日本人の睡眠時間は軒並み最低レベルで推移しています。

睡眠時間は長ければ良いと言うものでもない

多くの日本人が睡眠に関する不満を感じる中、「若いころより睡眠時間が減った」「疲れが取れないから休日はずっと寝ていたい」「夜中に何度も目が覚めてしまう」というような眠りに関する悩みから、 「少しでも多く睡眠を取りたい」と考える人も多いのではないでしょうか。

ところが、睡眠時間を長く取ることや休日に寝貯めをすることなどは、必ずしも良い事ではないようです。

それにはいくつかの理由があります。

休日の寝貯めが健康に良くない理由

平日の睡眠不足を補おうと、休日はついつい昼すぎまで寝て、「寝貯め」をする人も多いと思います。

休日の寝貯めが健康に良くない理由は、人の身体に備わっている恒常性維持機構(ホメオスタシス)体内時計という二つの人体システムの仕組みにあります。

そもそも必要以上に長く眠る必要がない
まず、恒常性維持機構の働きにより、睡眠が不足したときなどは普段よりも深い眠りが多く現れ、効率的に睡眠が取れるようになっており、人は必要以上に長く眠る必要がなくなっているため、実は寝貯めをしてもあまり意味がない構造になっています。体を酷使した日の夜などに「疲れて泥のように眠る」という言葉も、恒常性維持機構が働くおかげで、深い効率的な眠りが取れるようになっているのです。

そして、必要以上に長く眠ってしまうと、次の日の夜は寝付きが悪くなったり眠りが浅くなったりと、その後の生活の睡眠の質を悪化させてしまう可能性があります。

長く眠りすぎると体内時計が乱れる
また、普段と違う時間に寝起きすると、身体に一時的な時差ボケのような症状が起こり、体内時計が狂う要因となってしまいます。体内時計は、朝起きたときにリセットされる仕組みになっており、休日などに普段よりも長く眠りすぎて昼過ぎに起きると、体内時計は昼にリセットされてしまい、それをきっかけに体内時計が狂ってしまうことがあるのです。

体内時計が狂うと、生活リズムそのものが崩れる恐れがあり、そこから不眠睡眠障害、果てはうつ病など様々な体の変調につながる場合もあるため、休日の寝過ぎには注意する必要があるのです。

どうしても休日に、「普段より少し長く眠りたい」と思ったら、『普段の睡眠時間プラス2時間』までに押さえておきましょう。また、日頃の睡眠不足を補うには、休日の長寝よりも、平日の20分の昼寝のほうが効果が大きい場合があります。 昼寝には、短時間でも効果の大きな睡眠不足解消効果が期待出来ます。

睡眠時間と寿命には関係があるかも

1980年代にアメリカで100万人を対象行われた睡眠時間と寿命に関する追跡調査では、一日6.5時間~7.5時間の睡眠時間の人が最も死亡率が低く、それより長くても短くても、寿命は短くなる傾向にあったとされています。

しかも、より長く眠っているほうが特に問題で、7.5~8.5時間睡眠する人は6.5時間~7.5時間睡眠する人よりも、20%も死亡率がアップしたと言います。

睡眠時間が長くなると寿命が短くなるはっきりとした原因は今のところ明らかになっていませんが、原因の一つとして考えられるのは、睡眠時間が長くなると、その分レム睡眠の割合が増えるということです。

レム睡眠のときは、交感神経系が不安定に働きやすく、血圧や脈拍も不安定に上下します。すると、血管や心臓に負担がかかり、こうした生活習慣を長期間続けることで心疾患のリスクが高まることが寿命へ影響すると考えられます。

実際に、心疾患の一つである狭心症の発作は睡眠時の早朝に起こりやすい傾向にあり、その80%がレム睡眠中に起こっているという報告もあります。

また、睡眠時間が短い場合は、本来睡眠から得られる効果が十分に発揮できないことから、肥満や免疫力の低下など、健康面での悪影響が生じることから寿命への影響が考えられます。

睡眠時間が長いと・・・
  • レム睡眠の割合が増えて、交感神経の働きが不安定になるため、心臓や血管に負担がかかり、長期的には心疾患リスクが高まる
睡眠時間が短いと・・・
  1. 食欲が増え、肥満になりやすい
  2. 肌の老化が進行しやすい
  3. ストレスが溜まりやすくなり、うつ病の発症リスクの増加
  4. 免疫力の低下やガン発症リスクの増加
  5. 血圧の上昇と、心疾患リスクの増加
  6. 血圧上昇や肥満から、生活習慣病にかかりやすい
  7. 集中力が落ち、重大事故発生リスクが高まる
  8. より詳しくは『睡眠不足の影響と症状』をご覧ください。

こうした寿命に関する情報やデータ自体は眉唾ものですが、100万人という数字から得られたデータが示すものが仮に事実であれば、根拠や因果関係がはっきりしなくても、「睡眠時間と寿命の関係」 は無視できるものではありません。

★統計データ上の結論
一日6.5時間~7.5時間の睡眠時間の人が最も死亡率が低い。
つまり、長生きするのに最適な睡眠時間は6.5時間~7.5時間

★次のページでは『7.日本人の睡眠に関する統計データ』をご紹介します。

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