脳内で働くオキシトシンとセロトニンは人間が持つコミュニケーション能力や社会性、さらに安心、愛情、信頼と言った感情にまで深く関わっていることが分かっています。これらの二つの物質の密接な関わりを、具体的な研究結果などを交えてご紹介します。
オキシトシンとセロトニン
脳内で分泌されるオキシトシンは、他人とのコミュニケーション能力を高めるホルモンで、親子、家族、恋人など、親しい間柄では分泌が活性化し、ストレスへの耐性が向上します。
セロトニンは、精神の安定や鎮静と言った作用を持ち、怒りや不安などの感情を抑制します。
オキシトシンとセロトニンは、いずれも不安や緊張などのストレスに対する、強い抗ストレス作用を持つ物質であり、また脳内のセロトニン神経の一部には、オキシトシンの受容体があることなどから、二つの物質は相互に作用していることが明らかになっています。
自閉症との関係
脳内のオキシトシンとセロトニンは自閉症スペクトラムと関係が深い物質です。
対人コミュニケーション能力が苦手な発達障害の一種である自閉症スペクトラムでは、脳内のオキシトシンの濃度が健常者に比べて低いことが示唆されてきました。
2013年の東京大学から発表された研究結果から、自閉症スペクトラムの症状の改善には、オキシトシンの点鼻投与が有効であるということが研究で明らかになっています。
オキシトシンが増えるとセロトニンが増える
これまで、自閉症スペクトラムではコミュニケーション能力に困難が生じること、オキシトシンを投与すると症状が改善すること、そして自閉症スペクトラムの人々の脳内では、セロトニンの伝達能力が低下していることが分かっていましたが、これらの関係を具体的に示した研究をご紹介します。
金沢大病院神経科精神科の広沢徹助教授らが行った研究では、自閉症スペクトラムの患者にオキシトシンを投与したところ、自閉症の症状が改善すると同時に、脳内のセロトニンが増えたことが分かったといいます。この結果から、脳内のオキシトシンとセロトニンが増加することは、共に自閉症スペクトラムの症状を改善する効果が期待できると言えます。
今後、こうした研究が進むことで、自閉症スペクトラムによって他者とのコミュニケーションがうまくいかないことによる「生き辛さ」が改善すること、コミュ障や引きこもりに悩む人々の社会との接点が強化されていくことが期待されます。
参考:Autism Research – 「A pilot study of serotonergic modulation after long-term administration of oxytocin in autism spectrum disorder」
オキシトシンが減るとセロトニンも減る
金沢大学の行った研究では、オキシトシンを増やすとセロトニンも増えたことが明らかになりましたが、これは逆にオキシトシンが減ればセロトニンも減ることが示唆されています。
実際オキシトシンを増やす方法として有効な、スキンシップやグルーミングはセロトニンを増やす方法としても有効ですし、一方で、オキシトシンの分泌を阻害するシグナルである、強いストレス、睡眠不足、疲労、他者とのコミュニケーション不足などでセロトニン神経の活動が鈍化することも明らかになっています。
こうして、オキシトシンとセロトニンは、一方が増えればもう一方も増えて、一方が減れば他方も減るという、相互関係にあるといえます。
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