ノルアドレナリンは、ドーパミンセロトニンと同様に神経伝達物質の一種です。神経を興奮させる神経伝達物質で、「やる気」や「意欲」を高める反面、「不安」「恐怖」「緊張」といった感情・精神状態とも深い関係があります。別名「怒りのホルモン」とも言われ、また、ストレスに反応することから、ストレスホルモンの一種でもあります。

ノルアドレナリンの働き

ノルアドレナリンが分泌されることで以下のような作用があります。

  • 覚醒作用
  • 心拍数・血圧の上昇
  • 身体を緊張・興奮状態にする
  • 注意力や集中力、判断力、作業効率を高める
  • 物事へのやる気・意欲を高める
  • 緊急時には痛覚を遮断させる
  • 長期記憶、学習能力を高める
  • ストレスの耐性を強める
  • 食欲の低下、便秘
  • アドレナリンの分泌

ノルアドレナリンは、多くの動物に分泌されている原始的な物質です。

動物での一般的なノルアドレナリンの働きとして、動物が危険を察知すると、交感神経系を刺激して心拍数や血圧を上昇させて、覚醒、集中、判断力の向上、痛覚の遮蔽などの効果をもたらし、脅威(外敵など)に対抗する働き(闘争か逃走、fight or flight)をします。

つまり、ノルアドレナリンの本質は、生物の「生存本能」の源泉と考えてもよいでしょう。

ストレスに反応して、緊張感や集中力を生み出す

我々人間にとってのノルアドレナリンは、自律神経系のうち、交感神経系を興奮させる働きを持ち、脳と体を覚醒させる作用と、環境や対人、精神などから受ける『ストレス』に対応する作用などがあります。

仕事や対人関係においては、ノルアドレナリンの適度の分泌が適度の緊張感を与え、意欲や集中力を高めます。また、温度や湿度、騒音と言った不快なものに反応し、避けるように行動します。

ストレスを学習して順応する働きも

ノルアドレナリンには、体験したストレス状態を学習して、そのストレスに順応させる作用もあります。例えば、研究レポートの発表や仕事のプレゼンなどで、初めて大勢の人の前で話をしなければならない未知の体験をするとき、最初は誰でもノルアドレナリンが沢山分泌されて、高い緊張状態を生みますが、何度も繰り返し同じ経験をすることで、次第に場に慣れて緊張しなくなっていきます。

適度な分泌は高パフォーマンスに繋がる

ノルアドレナリンの分泌バランスが取れていれば、物事の判断力に優れ、ストレスへの耐性が強く(我慢強い)、危機に立ち向かう率先した行動が取れ、リーダーシップも発揮しやすい状態、いわば「理想的な人物像」に近い状態を作り出すことができます。そのため、ノルアドレナリンは「性格形成ホルモン」などと言われることもあります。

詳しくは『ノルアドレナリンの効果と作用』をご覧ください。

ノルアドレナリンとアドレナリンの違い

興奮した時に分泌されるホルモンの代名詞とも言える「アドレナリン」は、映画や歌のタイトルにも使われるほど広く一般に知られた言葉ですが、似たような働きをしていて、名前も似ているノルアドレナリンとアドレナリンにはどういった違いがあるでしょうか。

アドレナリンとノルアドレナリンはドーパミンと共にカテコールアミンという化学物質系に属し、これらの物質は、チロシンというアミノ酸が原料になっています。

ノルアドレナリンは副腎以外にも交感神経系の末端でも分泌されるのに対し、アドレナリンの分泌に必要な『フェニルエタノールアミン-N-メチルトランスフェラーゼ(PNMT)』という酵素が副腎髄質以外にはほとんど存在しないため、アドレナリンはほとんどが副腎髄質で分泌されます。(一部脳の中枢神経系でも分泌されます。)

二つの物質の大雑把な違いとしては、
アドレナリンは主に肉体(筋肉や血管)に作用して、運動能力を高める
ノルアドレナリンは脳(精神)に作用して、感情の昂ぶりやイライラなどを生み出す
という点です。

詳しくは『アドレナリンとノルアドレナリンの違い』をごらんください。

ノルアドレナリンはアドレナリンを作り出す

アドレナリンやノルアドレナリンの合成は、ドーパミン→ノルアドレナリン→アドレナリンの順序で合成されるため、 『ノルアドレナリンが分泌されることでアドレナリンも分泌される』または、『アドレナリンの分泌にはノルアドレナリンが必要』という関係があります。

ノルアドレナリンが不足すると?

ノルアドレナリンが不足すると、仕事や学習の効率低下、注意力が散漫になる、外部からの刺激に鈍くなり、意欲や判断力が低下、無気力、無関心となり、いわゆる抑うつ状態の症状が現れます。

一時的な落ち込みは誰にでもあることですが、強いストレスにさらされる続けるなどした結果、何らかの原因でノルアドレナリンが継続的に不足するとうつ病をはじめとした精神疾患、メンタルヘルスの原因ともなります。

一方、ノルアドレナリンの不足は身体的な症状としても現れます。ノルアドレナリンは交感神経系との関わりが深いため、ノルアドレナリンが不足すると低血圧、貧血、めまいや立ちくらみなど起こしやすくなります。

また、自律神経系の働きが乱れから、起床後の交感神経系への刺激が弱くなりやすいため、「朝が辛くて起きられない」、「夜は寝付きが悪い」と言った特徴を伴う起立性調節障害という病気を起こすこともあります。

詳しくは『ノルアドレナリンが不足すると』をご覧ください。

ノルアドレナリンが過剰だと?

ノルアドレナリンは分泌されることで意欲や集中力を高める反面、攻撃性や恐怖感、不安やイライラなど、ネガティブな感情も増幅する作用があるため、ノルアドレナリンが必要以上に分泌されると神経が昂ぶり、イライラしやすく、落ち着きがなくなり、キレたり攻撃的になりやすくなります。

詳しくは『ノルアドレナリンが過剰だと?』をご覧ください。

ノルアドレナリンを増やすには

ノルアドレナリンの原料はタンパク質に含まれる、フェニルアラニン、チロシンと言ったアミノ酸です。これらは牛乳、大豆、魚の赤身などに含まれています。また、これらのアミノ酸を分解、吸収するにはビタミンB6鉄分などが使われます。

良質なたんぱく質、ビタミンやミネラルの豊富な食材をバランスよく食べることで、ノルアドレナリンの原料を補給出来るでしょう。

ノルアドレナリンの生合成経路は、
1)L-フェニルアラニン
2)L-チロシン
3)L-ドーパ
4)ドーパミン
5)ノルアドレナリン
6)アドレナリン(副腎髄質)
ドーパミン、ノルアドレナリン、アドレナリンはチロシンから合成され、カテコールアミンという。

ノルアドレナリンの精神作用に着目した抗うつ剤『SNRI』は、脳内で使用可能なセロトニンとノルアドレナリンの量の増やすことでうつ病の症状を治療をする薬です。脳内の神経伝達物質を一定量に保って、精神バランスを整えることで治療効果を狙っているものです。


このコーナーでは、ノルアドレナリンについての話題を全5ページで紹介しています。
★次のページでは『ノルアドレナリンの効果と作用』をご紹介します。

photo credit:The Cosmopolitan of Las Vegas