セロトニンとは『ノルアドレナリン』や『ドーパミン』と並んで、体内で特に重要な役割を果たしている三大神経伝達物質に数えられます。セロトニンは人間の睡眠や食欲に大きな影響与え、ストレスによるイライラを抑えて心身の安定や心の安らぎなどにも関与することから、オキシトシンとともに『幸せホルモン』とも呼ばれ、不足すると気分が落ち込んでやる気がでない状態に陥りやすくなるとも考えられています。
目次
このページの要約
時間の無い方や、セロトニンとはなにかをとりあえずパパっと簡単に理解したい方はこちらの要約をお読み下さい。
- セロトニンは脳内で働く重要な神経伝達物質
- 人の感情を制御して心のバランスを安定させる役割を担っている
- セロトニンはトリプトファンというアミノ酸が原料になっている
- セロトニンが不足するとやる気が低下したり、イライラして怒りっぽくなったりすることがある
- ストレスや睡眠不足でセロトニンが不足しやすくなる
- 現代人の生活スタイルはセロトニンが不足しやすい
- セロトニンを増やすには規則正しい生活が一番重要
以下では詳しい内容を紹介します。後でゆっくり読みたい方は、ページをブックマークしておくと便利です。
セロトニンとは?
セロトニンは、神経伝達物質ノルアドレナリンやドーパミンの暴走を抑え、心のバランスを整える作用のある物質で、セロトニンが不足すると精神のバランスが崩れて、ストレスが溜まりやすくなって、暴力的(キレる)になったり、落ち込みやすくなると言われています。セロトニンという言葉は忙しい現代人が抱えるストレス問題と同時に語られることが多いようです。
最近では特にテレビや雑誌でも、精神バランスへの影響が大きい重要な物質として「セロトニン」という言葉を見聞きする機会が増えてきましたが、こうした心への影響が生じることがわかってきたのは最近のことです。
セロトニンが発見された当初の研究では、セロトニンは脳の血管を萎縮させ、偏頭痛の原因になる物質であるとされてきました。その他にも、これまでの研究で血液の凝固や、痛みの抑制などにも作用があることが明らかになっています。
セロトニンは自然界の生物(動物にも、植物にも)に一般的に含まれる物質で、脳内のセロトニンは『トリプトファン』と言うアミノ酸が主原料となって生合成されます。
参考:厚生労働省 e-ヘルスネット – セロトニン
セロトニンの体内分布
▼腸内に90%
人体中には約10ミリグラム程度が存在しており、そのうち約90%は小腸の粘膜にあるクロム親和細胞と呼ばれる細胞内にあります。昨今話題になっている過敏性腸症候群(IBS)(慢性的な下痢や便秘などの便通異常を伴う腹痛や腹部の不快感が繰り返される疾患)の症状にも腸内のセロトニンが消化管の働きに作用して起こると考えられています。
▼血液中に8%
体内のセロトニンのうち約8%は血小板に収納され、血液の循環を通じて体内を巡ります。血液中のセロトニンは、血液を凝固させる「止血作用」や、「血管の収縮作用」などがあり、セロトニンによる血管の収縮作用によって偏頭痛が起こると考えられています。
▼脳内の2%が精神に大きく作用
体内のセロトニンのうち約2%程度が脳内の中枢神経系に存在しており、この脳内の僅か2%のセロトニンが人間の精神面に大きな影響を与えていると考えられています。
セロトニンの働きが鈍ったり、不足したりすると気分が落ち込んでやる気が出なくなったりしやすくなります。逆に、脳内のセロトニンの濃度が高くなりすぎるとセロトニン症候群と言われる中毒症状が現れるなど、私たち人間の心の安定に脳内のセロトニンが大きく影響しています。
参考:Wikipedia – セロトニン
セロトニン神経の構成
一言でセロトニンと言っても、脳内でセロトニンの神経ネットワークを構成する細胞や物質の種類は様々です。中核となる神経系や受容体、セロトニンを運ぶトランスポーターなどについて紹介します。
▼セロトニン神経系
セロトニン神経系は、セロトニンを神経伝達物質として用いる神経系のことで、神経細胞と神経線維、標的細胞となる受容体などで構成されています。
セロトニン神経はその多くが脳内の『縫線核(ほうせんかく)』にあり、セロトニンを生合成したり、神経細胞間での情報伝達を行うことで様々な中枢機能に影響を与えています。
セロトニン神経系の主な働きは、中枢神経系の司る食欲、性欲、睡眠、情動、記憶、学習など、人の中枢機能への作用です。
▼セロトニン神経線維
神経線維とは神経細胞から伸びる軸索(突起)のことで、他の神経細胞や体組織に情報を伝達するために使われます。セロトニンの神経線維は中枢神経系の広範囲に存在しており、セロトニン神経系は食欲、性欲、睡眠、情動、記憶、学習など、様々な中枢神経の働きに関わります。
▼セロトニン受容体
複数種類のセロトニン受容体が存在し、種類によって担う効果が異なります。また体の様々な場所に存在しており、受容体が存在する場所によっては、同じ種類の受容体であっても作用が異なります。
▼セロトニントランスポーター
細胞間でのセロトニンの輸送をするタンパク質の一種です。セロトニントランスポーターは脳内だけでなく、血小板や腸内にも存在し、各所にセロトニンを届けています。セロトニントランスポーターの数が少ないと、セロトニンが分泌されても運搬する効率が悪くなり、情報伝達先でセロトニンの働きが十分に発揮されないことがあります。
▼セロトニントランスポーター遺伝子
セロトニンを輸送するセロトニントランスポーターの数は遺伝子によって決定されることが分かっています。セロトニントランスポーターの数を決めているのが『セロトニントランスポーター遺伝子』です。
セロトニントランスポーターの数によって体内でのセロトニンの使われ方が変わってくること、そして使われ方によって、私達の性格の形成に影響が生じる可能性があることが分かっています。
セロトニンの性格形成への影響
セロトニントランスポーター遺伝子のタイプによっては慎重で臆病、内向的な性格になりやすいタイプと、逆に大胆で陽気、攻撃的な性格になりやすいタイプがあるとされており、セロトニントランスポーター遺伝子は性格形成に影響する遺伝子であるとも評されます。
実際、多くの日本人が持つセロトニントランスポーター遺伝子は、内向的、神経質で慎重になりやすいタイプだとされています。遺伝子は親から子に引き継がれますので、伝統的に日本人はこうした内向的でおとなしい気質を先祖代々引き継いで来たと言えます。
参考:性格は遺伝するか
セロトニンの合成経路
セロトニンは必須アミノ酸であるトリプトファンが原料となって合成されます。脳内のセロトニンが合成される主要な経路をご紹介します。
トリプトファン→5-HTP→セロトニン→ノルメラトニン→メラトニン
合成経路からもわかるようにセロトニンは睡眠ホルモン『メラトニン』の合成に必要な物質でもあるため、睡眠の質にも大きな影響があります。
セロトニンの主原料であるトリプトファンは、セロトニン以外にも様々な物質の合成に消費されます。例えばアルコールを分解する際に消費されるナイアシンはトリプトファンから合成されるため、お酒を飲みすぎるとナイアシンが大量消費され、トリプトファンが足りなくなってセロトニンの合成にも影響が生じる可能性もあります。
セロトニンの部位別の効果や働きは?
セロトニンは腸内におよそ90%、血液中に8%、脳内に2%程度ずつ分布しているとされています。それぞれの部位でのセロトニンの働きについてご紹介します。
- 腸内のセロトニンの効果(全体の90%)
- 腸のぜん動運動に作用し、消化を助けて整腸作用があります。腸内のセロトニンは最近急増するIBS(過敏性腸症候群)の原因の一つと言われています。カレーを食べるとドバドバ出る、という噂も?
- 血液中のセロトニンの効果(全体の8%)
- 血小板の中に収容され、止血作用、血管の収縮作用などがあります。肩こりや偏頭痛の原因の一つとされています。
- 脳内のセロトニンの効果(全体の2%)
- 交感神経系と連動して、体内時計の調節し、覚醒状態(活発に活動出来る状態)を保ちます。ドーパミンやノルアドレナリンの作用を制御して、人間らしい理性のある性格の構築、気分や感情のコントロール、抗ストレス作用、衝動行動や依存症の抑制、姿勢の制御などの働きをしています。
- また、痛覚を抑制したり、海馬における記憶力や学習効果にも影響を及ぼしています。咀嚼や呼吸といった反復運動の機能にも作用しています。
→詳しくは『セロトニンの効果と作用』
セロトニン不足時の症状の例
セロトニンはノルアドレナリンやドーパミンの暴走を抑え、心のバランスを整える作用のある伝達物質です。セロトニンが不足すると、様々な症状が現れます。
疲れやすい/ぼーっとする/やる気が起きない/集中力がない/怒りっぽくなる/イライラする/キレっぽい・落ち込みやすい/すぐくよくよする/食べ過ぎる/食欲がない(過食/拒食)/感情的になりやすい/寝付きが悪い/眠れない(不眠)/睡眠ホルモン「メラトニン」の減少/偏頭痛がでる/欲求不満/日中眠い・姿勢が悪くなる ・肩こり ・緊張しやすい/ストレスが溜まりやすい/様々な依存症(買い物、ギャンブル、アルコールなど)になりやすい/パニック障害/その他、様々な身体・精神的な症状
※症状は人により異なります。
セロトニンの不足は、身体・精神の両面に様々な影響を及ぼします。逆に、セロトニンが満ち足りていれば、心のバランスを整え、気持ちのゆとりや心に安らぎを与えてくれます。強いストレスを受けたとき、気分の落ち込みを感じるときはセロトニンが不足しているかも知れません。
ストレスによって起こるセロトニン不足に有効なのが、太陽光を浴びることです。太陽光は、朝の目覚めを助けてくれるだけでなく、 夜の睡眠の質の向上にも役立ちます。
太陽光を浴びると交感神経系が活性化し、脳内のセロトニンの分泌が促進されて抗ストレス作用を生み出す他、体内時計をリセットして睡眠の質を改善する効果も期待できるため、ストレスによって寝付きが悪い人や眠りが浅くなっている人にとっても効果的です。
日当たりや遮光カーテンのせいで朝起きるときに太陽光を浴びることが難しい人には、光目覚まし時計がおすすめです。
なぜ現代人はセロトニンが不足しやすいのか
多くの現代人がセロトニンの不足に直面していると言われています。人間の精神の安定に必要不可欠なセロトニンはなぜ不足してしまうのでしょうか?
セロトニン研究の第一人者である有田秀穂医学博士(東邦大学名誉教授、セロトニン道場代表)は、
昨今、大人から子供まで、セロトニン神経の減弱している方が多数見受けられます。現代特有のライフスタイルにセロトニン不足の原因があるのではないかというのが私の見解です。過度なコンピュータ操作、テレビやゲーム漬けの毎日、運動不足、昼夜逆転の生活リズムなどの不規則な生活…。
本来、規則正しい生活リズムで、軽い運動や日光浴などで、自然と活性化されるはずのセロトニン神経も、これでは衰える一方です。
と、セロトニン不足の原因を現代社会のライフスタイルである分析されており、現代人の誰しもがセロトニン不足になる可能性があると警鐘を鳴らしています。
ストレスがセロトニン不足を加速させる
▼増加する人間関係のストレス
現代社会のライフスタイルに当てはまるのが、対人ストレスの増加です。会社や学校、仕事や勉強、そして家庭内でも、人と人の関わりの中で様々なストレスが生まれています。こうした対人ストレスは、長く続いて慢性化することが多いストレスです。セロトニンを合成するセロトニン神経系は短期的なストレスよりも慢性ストレスによって減弱しやすくなっています。
詳しくは、『セロトニンとストレス』をご覧ください。
▼運動不足
ライフスタイルの変化により、現代人は運動不足になりがちです。殆どの仕事はパソコンを使ったデスクワークになり、子どもは外で身体を動かして遊ばなくなり、スマホやゲーム機などで遊びます。セロトニンは呼吸や脈拍と言った一定のリズムを刻む動作に作用する性質があり、身体を動かす運動はセロトニン神経を活性化させるために重要でしたが、現代ではそうした運動をする機会が減ったことが、セロトニン不足を招く要因となっています。
▼睡眠不足
ライフスタイルの変化がもたらしたもう一つの弊害は、睡眠時間の減少です。日本人の睡眠時間は年々低下しており、先日、厚生労働省が発表した、平成27年の国民の健康調査の結果によると、日本人のおよそ4割が睡眠時間6時間未満で過ごしていることがわかりました。この数字は、10年前と比べても15%ほども上昇しており、日本社会全体の睡眠時間が年々減少していることが伺えます。
睡眠不足によってセロトニンが不足する原因のひとつが、ストレスが十分に解消されずに蓄積されていくことです。本来、仕事や人間関係からくるストレスは、十分な睡眠を取ることで、ある程度は解消されるはずですが、睡眠が不足してしまうと、ストレスが蓄積されてしまい、それがセロトニン神経の減弱、そしてセロトニン不足へとつながってしまうのです。
▼高齢化の影響も
高齢化が進む日本ですが、加齢による身体機能の衰えから高齢者はセロトニン不足になりやすい言われています。セロトニンは、顔の表情筋や、身体の姿勢筋にも作用しており、年を取ると顔が垂れたり、腰が曲がるのもセロトニンが減っていくことが影響しています。
▼日光不足
セロトニン神経の活動には、日光が大きく影響します。昨今、大人はオフィスで一日中パソコンに向かい、子供達の遊びは屋内型の傾向にあります。連日にわたり長時間室内でパソコンやゲームをやり続けるという生活習慣では、日光を浴びる機会が減り、セロトニン神経が弱体化しやすくなります。
▼無理なダイエット
セロトニンの原料となるトリプトファンは、無理なダイエットをすると脳に届きにくくなり、脳のセロトニンが不足する原因となります。無理なダイエットとは、極端に糖質を摂取しない糖質制限ダイエットなどです。栄養バランスの乱れがセロトニン不足を招きます。
▼誰でもセロトニン不足になる可能性がある
電子機器、ストレス、高齢化、運動不足、睡眠不足、室内遊び、ダイエット…。現代人なら誰でもひとつやふたつ当てはまってしまいます。私たち現代人は、知らず知らずのうちにセロトニン不足に陥り、気が滅入って落ち込んでしまったり、心のバランスが崩れて、何かに深く依存してしまったり、イライラしてキレやすくなってしまったりするのです。
セロトニン神経の弱体化から起こる自律神経系の乱れは、体調に様々な不調を来たす自律神経失調症を発症させる原因となります。特に、思春期の子どもが自律神経系の乱れを起こすと、起立性調節障害などの症状を引き起こします。
▼腸内環境の悪化も原因に
脳内でセロトニンが不足するもう一つの原因は、現代人の腸内環境の悪化です。『食の欧米化』が進んだ現代日本では、年々腸内環境が悪化しており、腸内に住む腸内細菌にとっても、住みにくい環境になってしまっているのです。腸内細菌は、脳へセロトニンの材料を送る上で非常に重要な働きをしていることがわかっており、腸内環境が悪化することで、その働きも弱くなってしまうことが明らかになってきました。
詳しくは『セロトニンと腸内環境』をご覧ください。
参考:NCBI – Serotonin and stress coping.
セロトニンを増やすには?
現代人に不足しがちなセロトニンを増やす、または不足しないようにするにはどうすればよいでしょうか?
セロトニンを増やす方法は、1.早寝早起き、2.太陽光、3.リズム運動、4.よく噛む、5.グルーミング、6.トリプトファンをたっぷり摂る、7.腸内環境、8.継続すること
です。
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- 参考文献
- 厚生労働省 e-ヘルスネット – セロトニン
- 国際生命情報科学会誌 – セロトニン神経活性化の臨床的評価:脳波α2成分の発現
- NCBI – PMID:1752859
- NCBI – PMID:25108244
- Wikipedia – セロトニン