今、腸という内臓の重要性が注目されています。普段、私達の目には見えないために馴染みは少ない腸ですが、実は、私達が生きる上で脳や心臓に並んで非常に重要な働きをしている臓器でもあるのです。
人の免疫機能のうち6割が腸に集中している
免疫とは、簡単に言えば病気やウィルスから体を守るための、自己防衛機能のことです。その免疫を司る免疫機能のうち、およそ6割が腸(特に小腸)に集中しているのです。
食事などで腸内に入ってきた物質一つ一つを、害の有無を自動的に判断して、栄養素など体に無害なものは消化・吸収し、病原菌やウィルスなど有害なものは免疫細胞によって攻撃、または体外へ排出する働きを持ちます。
また、体に有害な物質は食事など体外から侵入してくるだけでなく、体内で発生することもあります。
人の体内では毎日数千個のガン細胞が発生しているとされております。こうした有害なガン細胞も、腸の免疫機能によって、日々排除されています。
さらに、タンパク質や脂肪など、小腸で吸収しきれなかった食べカスなどが大腸に留まると有害物質を発生させて、肌荒れなどの皮膚トラブル、体臭の悪化、血糖値の上昇、生活習慣病など、様々な悪影響が生じますが、こうした有害物質の悪影響を最小限にして、速やかに体外へ排出するのも、腸の働きによるものです。
こうして、ウィルスや病原菌によって起こる風邪や下痢のような小さな病気から、ガンや生活習慣病のような重大な疾患までが、腸の働きによって防がれているのです。
免疫を担う免疫細胞は、腸内細菌によって訓練されている
例えば軍隊や警察のような組織でも、外敵から体を防衛するためにも、訓練や研究が重要であり、そうした組織では日々、厳しい訓練が行われていることが知られています。腸内の免疫機能においても、外敵(病原菌やウィルス、ガン細胞など)と戦うための訓練が行われており、その訓練の相手は腸内に生息している腸内細菌が担っています。
腸内細菌が免疫細胞を刺激することで、免疫力が活性化されて、腸の免疫機能はその免疫力を保っています。そして、免疫力をより活性化するには、腸内細菌の多様性が求められます。
(つまり、色々な種類の相手(細菌)と訓練したほうが、免疫細胞の練度が上がる。)
そのため、腸の免疫機能を維持するには、多種多様な腸内細菌が生息しやすいように腸内環境を整えてあげる必要があるのです。
腸内細菌は、人の体と共生しており、自分たちが生存するためにも、宿主である人間の体を健康に保とうとします。腸内細菌が、宿主である人の体を健康に保とうとする働きの一つが、免疫細胞を訓練して免疫力を活性化させることなのです。
腸内細菌は、善玉菌・悪玉菌などと、まるで善か悪で括られるような場合もありますが、善玉・悪玉を問わず、腸内細菌が免疫力の活性化の他にも、ビタミンの生成、糖やタンパク質の分解など、様々な形で人間に寄与していることを考えると、善玉菌でも悪玉菌でも、基本的には人の体に取って無くてはならない存在です。
ただし、悪玉菌が増えすぎると体に悪影響が及ぶため、善玉菌>悪玉菌と常に善玉菌優位の腸内環境が望まれるのです。
栄養を消化・吸収している
人は霞を食べて生きることは出来ません。常に体外から食事などの形で、栄養素を取り込むことが必要です。
体に取り込んだ食物は、そのままでは吸収できないため、消化器官で消化され、吸収されます。腸はそうした栄養素を消化・吸収している臓器です。
人の腸は、植物で言うところの「根」のような役割を担っており、腸という体の中にある根が、体に必要な水分や栄養素を吸収してくれるお陰で、我々は生命を保っているのです。
根が悪くなった植物はどうなるかは、言わずもがなです。
腸の働きを保つには食事が重要
腸の働きを良好に保つには、食事の仕方が重要です。
中でも、腸内フローラの多様性を保つことが重要であることが近年言われており、プロバイオティクス(乳酸菌やビフィズス菌、納豆菌のような体に有益な働きをしてくれる腸内細菌)や、プレバイオティクス(食物繊維やオリゴ糖のように、有益な腸内細菌を増やしてくれる食物)を摂取することが、腸内フローラの多様性を高めて、良好な腸内環境を築く上で大切であるとされています。
また、現代の日本でも一般化している、欧米型の肉食中心の食生活は、腸内環境を悪化させる原因であると言われており、またそうした欧米型の食生活の蔓延が、アレルギー疾患や大腸がんの罹患数の増加の遠因であるとも言われています。
肉中心の食生活を日本よりも以前から続けてきた欧米では、近年になって肥満者の急増、心疾患や生活習慣病等の患者数の激増、それに伴う社会保障費の拡大が国政にまで影響を及ぼし、食生活の改善と、それによって腸内環境を整えることは欧米各国の至上命題とも言われています。
そして、まだまだ欧米のような、人々の腸内環境が悪化したことによる、『深刻な影響』が感じにくい日本でも、このまま食生活と腸内環境の改善がなされなければ、将来いずれは欧米の轍を踏むであろうことは容易に想像が出来ます。
腸内環境は、私達の一人ひとりの健康に多大な影響を与えているだけでなく、論理の飛躍が甚だしいですが、「腸内環境は国の行く末にさえ影響を与えている」とさえ言えるのかもしれません。
photo credit :Ivan Mlinaric