睡眠中に分泌される成長ホルモン。この場合の「睡眠」とは、夜間の睡眠を指していることがほとんどで、昼寝中に成長ホルモンが分泌されるのかは、あまり語られていません。昼寝と成長ホルモンの関係について、ご紹介します。
目次
成長ホルモンは昼寝でも出る
先に結論を述べると、昼寝でも成長ホルモンは分泌されます。
しかし、昼寝で成長ホルモンを分泌させるには、いくつかの条件をクリアする必要があり、誤った方法で昼寝をすると成長ホルモンの分泌効果が薄かったり、一日トータルでの成長ホルモンの分泌量が減って逆効果になることも考えられます。
昼寝で効率よく成長ホルモンを分泌させる条件
▼徐波睡眠を発生させる
成長ホルモンは、睡眠の深さに比例して分泌量が変化します。昼寝で効率よく成長ホルモンを分泌させるには、昼寝中に『徐波睡眠』という深い睡眠状態に入る必要があります。夜間の睡眠の場合、睡眠開始後の3時間の間に成長ホルモンが最も多く分泌されることが分かっており、この3時間の間に成長ホルモンが多く分泌される条件となっているのが『徐波睡眠の発生』なのです。
夜間の睡眠同様、昼寝でも徐波睡眠を発生させることで成長ホルモンが分泌されます。
▼昼寝時間は30分以上
徐波睡眠は入眠後30分後以降から発生するため、少なくとも30分以上は昼寝を取らないと、十分な量の成長ホルモンの分泌は望めません。
理屈としては、30分以上の昼寝をすれば、徐波睡眠が発生して成長ホルモンは分泌が開始されます。しかし、肉体を酷使するアスリートや軍隊のような特殊なケースを除いて、一般の方が昼寝による成長ホルモンの分泌を促す行為は、あまりお勧め出来ません。
昼寝で成長ホルモンを分泌させるのはお勧め出来ない
昼寝で成長ホルモンの分泌を誘発させるのをお勧め出来ない理由として、
1.そもそも夜ほど効果がない
2.分泌総量が減る可能性がある
3.眠りの質が悪くなって生活の質が下がる
の3つが挙げられます。
そもそも夜ほど効果がない
昼寝による成長ホルモンの分泌は、夜間のそれとくらべて効果は減少します。その理由は、『体温』、『メラトニン』、そして『体内時計の存在』です。
▼体温の日内変動
人の体温は1日のうちで一定のリズムで変動しています。体の内部の体温、いわゆる『深部体温』は日中は高く、夜の就寝前になると低下します。夜になると自然と眠くなる原因の一つが、この『深部体温の低下』です。
ところが、日中の昼寝の場合、深部体温は十分に低下しないため、体温低下による催眠作用は発揮されません。
詳しくは『睡眠と体温』をご覧ください。
▼メラトニンの分泌
次に、夜の睡眠に関係して分泌されるのが、睡眠ホルモンである『メラトニン』です。メラトニンも一日で規則的なリズムで分泌されることが明らかになっており、通常、日中はほとんど分泌されず、夜間の就寝前に分泌が最高潮に達します。このメラトニンの分泌サイクルは、先に紹介した、体温の日内変動とも同調した分泌リズムであるといえます。
▼体内時計の存在
体温の日内変動と睡眠ホルモンメラトニンの分泌。これらが夜間に分泌されるのは、体内時計という生体メカニズムの働きによるものです。『朝起きて夜眠る』という基本的な生活リズムを守るために体内時計は働き、それに連動して体温の変動やメラトニンなどのホルモンの分泌が行われているのです。
こうした、体内時計に連動した、体温変化とメラトニンの分泌という条件が揃った状態で夜に睡眠を取るのと、昼寝時のそうでない状態での睡眠の最大の違いは、『眠りの深さ』です。
実は、そもそも昼寝では、夜間の睡眠前に起こる体温の低下やメラトニンの分泌が起こらないため、深い睡眠である徐波睡眠には達しにくく、夜間に比べると、どうしても眠りが浅くなりがちなのです。
そのことから、昼寝による成長ホルモンの分泌は、例え同じ時間眠ったとしても、夜の睡眠中に分泌される成長ホルモンの量よりも少なくなってしまうのです。
分泌総量が減る可能性がある
昼寝では夜の睡眠中ほどの成長ホルモンの分泌効果を得ることは難しい、ということをご紹介しましたが、成長ホルモンが分泌するような昼寝(30分以上の長時間の昼寝)を取ることは、別の問題に繋がります。
仮に、昼寝で成長ホルモンが分泌するような睡眠(30分以上の長時間の睡眠)をしたとすると、成長ホルモンの分泌総量が、逆に減ってしまう可能性があるのです。
その理由は、昼寝をすることで一定のリラックス効果やストレス解消、疲労回復の効果が得られる反面、相対的にその日の夜の睡眠の必要性が下がってしまうため、夜の睡眠時に眠りが浅くなってしまい、本来分泌されるはずの成長ホルモンも、眠りが浅くなることで分泌量が減ってしまう可能性があるのです。
眠りの質が悪くなって生活の質が下がることも
成長ホルモンを分泌させるために長時間の昼寝を繰り返すと、その分夜の眠りが浅くなって、睡眠の質が悪化してしまう恐れがあります。
睡眠の質の悪化は、日中ボーっとしてしまったり、やる気が出なかったり、集中力や判断力が低下したりと、生活の質そのものまでを低下させる可能性があります。
眠りの質の悪化は、例えば肌荒れ解消、ダイエット、筋肉の増強、学習効果の向上、など、本来昼寝によって成長ホルモンを分泌させて達成したかったこと、その全てにおいて逆の効果が現れる可能性さえあるのです。
肉体を酷使する場合は例外
昼寝で成長ホルモンが分泌されるほど深い眠りにつくと、夜の睡眠時に分泌される成長ホルモンの量が減って、結果的に分泌総量が減少する可能性をご紹介しました。
これは多くの現代人に当てはまるのですが、中には例外とも言える人々が存在します。肉体を酷使するアスリートやボディビルダー、肉体労働者、軍隊などです。
これらの例外とも言える人々の場合、昼寝でも成長ホルモンは分泌され、夜にもまたたっぷり分泌される可能性があります。
その鍵となるのは、『疲労の蓄積』です。
疲れたときは『泥のように眠る』といいますが、人の眠りは、疲労が蓄積すればするほど、その疲れを効率よく解消して、肉体の機能を維持しようとする働き(恒常性維持機構)があるため、肉体を酷使して疲労が蓄積すると、徐波睡眠に到達する条件として挙げた、『体温の低下』や『メラトニンの分泌』が起こらない昼寝であっても深い眠りに到達して、成長ホルモンが分泌されます。
また、昼寝後も激しい肉体酷使を続けると、夜も疲労が溜まった状態で睡眠することになるため、深い眠りについて成長ホルモンが分泌されます。
恒常性維持機構の仕組みを利用して、通常よりも成長ホルモンの分泌量を増やしたいのであれば、運動や労働をたっぷりして、肉体を酷使して、体に疲労を蓄積させてあげればよいでしょう。ただ現代では、日常の中で肉体を激しく酷使できる場面は、ほんの一握りの人々しか経験することはないと思いますので、昼寝をしても成長ホルモンが増える人と言うのは、『例外』の人だけなのです。
幼児期の子どもの昼寝と成長ホルモン
年齢にもよりますが、幼児期の子どもにとっての昼寝は、そもそも大人の昼寝とは性質や意味合いが異なります。体内時計が整った大人が朝起きて夜眠る『単相性睡眠』という睡眠パターンを取るのに対し、体内時計が整っていない幼児期の子どもは、ところかまわず眠りに就く『多相性睡眠』の睡眠パターンを示します。
また、大人の睡眠周期が、レム睡眠(一般的には浅い眠りと表現される)とノンレム睡眠(一般的には深い眠りと表現される)を繰り返す波のような睡眠周期を取るのに対し、幼児の場合はレム睡眠の割合が少なく、ほとんどがノンレム睡眠です。
人間の幼児期は睡眠ホルモンであるメラトニンが一生のうちで最も大量に分泌される時期で、幼児期の子どもはいつ眠ってもメラトニンがたっぷり分泌されるため、いつでも深い眠りに入ることが出来るのです。そのため、子どもの場合は、昼だろうが夜だろうが、『眠りにつけば成長ホルモンが分泌される』ということが言えます。
このとき注意したいのは、幼児期の子どもの睡眠であっても、周囲の騒音や眩しかったりして、眠りが浅くなるようでは成長ホルモンの分泌は阻害されるため、眠っているときはなるべく暗くて静かな状態にしてあげるのが良いでしょう。また、子どもの成長に合わせて、徐々に大人と同様の生活リズムを送れるように、昼寝の時間も減らして体内時計の発達を促してあげる必要もあります。
まとめ
- 昼寝でも成長ホルモンは出ることは出る
- 睡眠が深ければ深いほど成長ホルモンは出る
- 昼寝で出る成長ホルモンは夜より少ない
- 下手に昼寝すると成長ホルモンの分泌総量が減る可能性あり
- 子どもは例外でいつ寝ても成長ホルモンが出る
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