糖新生とは、血糖値が下がったときにアミノ酸や乳酸、グリセロールを分解して、肝臓でグリコーゲンに変えて、グリコーゲンをブドウ糖へと合成する一連の仕組みのことです。ブドウ糖は脳の唯一の活動エネルギーであり、低血糖が進行して脳に供給されるブドウ糖が不足するような場合には糖新生が起こります。
糖新生とは
糖新生とは、血糖値が低下したときに体内に蓄えたタンパク質や脂質をブドウ糖に変えて、血糖値を維持し、脳のエネルギーを作り出す仕組みのことで、人の『恒常性維持機構(ホメオスタシス)』のひとつです。
人の脳はブドウ糖しかエネルギー源として利用できず、脳の中枢機能を維持するには、滞りなくブドウ糖を脳へと送り続ける必要があります。
通常、人は食事から炭水化物などを摂取して、体内でブドウ糖に変換して血中から脳へと供給しており、食事から摂取するブドウ糖が脳の機能維持に使われています。
長時間の断食やダイエット時の摂取カロリーの減少などで、血糖値を維持するだけのブドウ糖が食事から得られない場合は、肝臓に蓄えられた『グリコーゲン』という糖質をブドウ糖へと変換して血糖値を維持します。
しかし、肝臓のグリコーゲンの貯蔵量はさほど多くないため、すぐに底をついてしまいます。
グリコーゲンが尽きた状態で血糖値が低下し続けると、脳の機能は低下していき、やがては死に至ってしまうため、ブドウ糖が不足したときに脳に必要なエネルギーを産生して、生命を維持する仕組みとして備わっているのが『糖新生』というわけです。
糖新生という仕組みが働かなければ、人は食事を断つと数日しか生きることができませんが、糖新生が働くおかげで、水さえ飲めれば、脂肪や筋肉をエネルギー源に変換して、数十日は生き延びることができるのです。
糖新生に関係が深い物質
▼アミノ酸(糖原性アミノ酸)
糖原性アミノ酸は、体内の筋肉に蓄えられたアミノ酸のうち、糖新生に利用される種類のアミノ酸のことです。糖新生のほとんどは、この糖原性アミノ酸を媒体として起こります。
▼乳酸
乳酸はブドウ糖が細胞内で『解糖』される過程で生じる物質です。解糖とは、ブドウ糖をエネルギーとして利用しやすい形態に分解する働きのことを言います。糖新生の一部は血中や筋肉中の乳酸も利用されます。
▼中性脂肪
中性脂肪は脂肪細胞の中に蓄えられている物質で、グリセロールと脂肪酸が結合して合成されます。馴染みに言葉でいうと『体脂肪』のことです。糖新生では中性脂肪はグリセロールと脂肪酸へと分解され、グリセロールは糖新生に利用され、脂肪酸は分解(β酸化)で生じたエネルギーを糖新生を起こすエネルギーとして利用される。
▼グリセロール
グリセロールは中性脂肪を分解したときに脂肪酸と共に合成される物質で、グリセリンとも呼ばれます。臓器や筋肉のエネルギーとして用いられ、糖新生にも利用されて、グリコーゲンに変換されて脳のエネルギー源にもなります。
▼脂肪酸
脂肪酸は糖新生を起こすエネルギー源として中性脂肪から分解されて合成される物質です。糖新生を起こすエネルギー源として、脂肪酸の分解(β酸化)エネルギーが利用されます。
▼遊離脂肪酸
遊離脂肪酸は血中の脂肪酸のことです。遊離脂肪酸は『血液脳関門』を通過できないため、普段は脳のエネルギーにはなれないが、臓器や筋肉のエネルギー源となります。また、糖新生が起こると脂肪酸の一部はケトン体になり血液脳関門を通過して脳のエネルギーにも利用されます。
▼ケトン体
ケトン体は糖新生時のアミノ酸や脂肪酸の分解の過程で生じる物質です。ケトン体は血液脳関門を通過することが出来る物質で、ブドウ糖の枯渇時は、ブドウ糖に代わり脳のエネルギー源にもなる、ブドウ糖の代替物質とも言える物質です。また、脳以外にも筋肉や臓器のエネルギー源になります。
血中のケトン体濃度が一定値を超えた状態のことを『ケトーシス』と呼びます。ケトーシスになるとケトン体の一種であるアセトンが原因となり、ケトン臭という独特の臭いが発生し、口臭や体臭が悪化する場合があります。
糖新生とグルカゴン
グルカゴンは、血糖値を上昇させる働きを持つホルモンです。
血糖値が低下するとすい臓からグルカゴンの分泌が増加し、肝臓のグリコーゲンの分解を促進して血糖値を上昇させます。肝臓のグリコーゲンが尽きても血糖値の低下がさらに進む場合、筋肉からアミノ酸を、脂肪からグリセロールと脂肪酸を分解して糖新生を促進して血糖値を維持するよう働きます。
グルカゴンは血糖値上昇と、糖新生を促進する働きを持つホルモンです。
糖新生とコルチゾール
コルチゾールは代表的なストレスホルモンで、グルカゴンと同じく血糖値を上昇させる働きと糖新生を促進する働きを持つホルモンです。
グルカゴンが血糖値の低下に即座に反応する、『血糖値上昇の一番手』とも言うべきホルモンであるのに対し、コルチゾールは血糖値の低下に対してはグルカゴンほどすぐには反応せず、より危機的な状況になると分泌量が増加します。
より危機的な状況とは、いわゆる飢餓や絶食が続くような状態で、心や体が強いストレス下に置かれた状態を指します。ストレス下で脳が栄養不足に陥ると生命維持が困難になるため、そうした状態を回避するためにコルチゾールは分泌が増加して、血糖値を維持するために糖新生を促進します。
※コルチゾールは日常的に一定量が分泌されています。
また、コルチゾールはストレスに反応する性質があるため、血糖値があまり下がっていない状態でも、強いストレスを受けるとコルチゾールが分泌されて、肝臓でのグリコーゲン分解を促進させて血糖値を上昇させてしまいます。
血糖値が上昇するとインスリンが分泌されて血糖値を下げるように作用しますが、慢性的にコルチゾールが分泌され続けるようなストレス状態に陥ると、インスリン抵抗性が上がって、インスリンによる血糖値を下げる作用が損なわれてしまう事があります。
インスリン抵抗性が上がると血糖値が下がりにくくなってしまうため、強いストレスが長期間続くと糖尿病を起こす可能性が高まります。
尚、グルカゴンやアドレナリン以外にも、アドレナリンや成長ホルモンも血糖値を上昇させる働きを持つホルモンです。
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