脳疲労とは、脳が仕事や勉強などで酷使されることで消耗すること、特に、消耗した結果、脳の様々な機能が低下している状態のことを指します。人には恒常性維持機構(ホメオスタシス)が備わっているため、こうした脳の疲労は睡眠や休息を摂ることで、解消されます。ところが、忙しい現代では、疲労の回復が追いつかず、脳の過労状態ともいうべき、慢性的な脳疲労を抱えている人が増えていると言われています。
脳疲労が増えた原因
そもそも一昔前なら、こうした脳疲労と言うのは難関大学を受験するエリート学生、科学者や研究者のような、年中頭を使いっぱなしの人以外にはあまり縁のなかった言葉かも知れません。(語弊は大いにあるでしょうが。)
脳疲労が近年増えた大きな要因は、急速な電子機器の普及にあると考えています。1990年代以降になるとパソコンが普及し、今では仕事も勉強もパソコンやタブレット、スマートフォンなどの情報端末が欠かせません。
こうした電子機器は、インターネットによって世界中とつながることで、わからないことや知らないことはいつでも調べることが出来、また、人間がするよりもはるかに高速かつ正確に計算をしてくれます。そして、これら電子機器の性能は日進月歩で日々進化し続けています。
一方、我々人間一人ひとりの脳は、今も昔もさほど性能としては変化ありません。人類は、過去からの知識、技術や経験などを継承することで文明として進化してきましたが、人間一人ひとりの能力が文明の進化と等しく向上しているということではありません。昔よりも速く計算できるわけでもなく、早く読み書きできるわけでもなく、公式や辞書などが整理されることにより、知識や経験のスタートラインが過去の人よりも前になっているだけのことではないかと思います。
つまり、我々が扱える情報量は、昔から余り変わっていないのに、電子機器の急速な発達によって、それをはるかに凌ぐ情報量が、日々、眼や耳を介して、我々の脳に流れ込んできているのです。
『電子機器による情報過多』。これが近年の脳疲労増加の一番の原因ではないかと考えています。
どんなとき脳が疲労を感じるか
脳が疲労を感じるのは、例えば以下のような時です。
- ・脳へのエネルギーの供給が減ったとき
- 実は人間の脳は、車で言えばアメ車のように燃費が悪く、大量のエネルギーを必要とする臓器です。また、脳は偏食でブドウ糖と酸素しかエネルギー源にすることが出来ず、また、ほとんど蓄積することも出来ないため、常に大量のブドウ糖を脳へ供給し続けないと、脳はすぐにガス欠を起こしてしまいます。
(酸素は呼吸すれば取り入れられるため、通常は不足しない) - ガス欠気味になってくると脳疲労が起こり、脳の機能は低下してしまいます。
- ・疲労物質が溜まったとき
- 脳や体が活動し続けることで、体内では活性酸素や疲労物質(ファティーグ・ファクター,FF)が発生して蓄積していきます。
活性酸素は細胞のDNAを傷つけたり、細胞を酸化させてしまいます。 - 活性酸素の発生は、疲労物質の発生を誘発・促進させ、疲労物質が蓄積していくことで脳が疲労を感じます。
- ・モチベーションが低下したとき
- 「好きなことは一日中没頭できるけれど、嫌いなことは30分だって続かない」
同意できる人も少なくないと思いますが、嫌なこと(モチベーションが湧かないこと)をした場合や、長時間続けたことでモチベーションが低下した場合に、脳は不快感を感じやすくなります。 - 不快感は脳へのストレスとなり、ストレスが蓄積していくと、脳の集中力や判断力と言った機能は低下していき、以後はただストレスが蓄積していくだけです。
- ところで、こうしたモチベーションにはドーパミンと言う脳内の神経伝達物質が深く関与しており、『ドーパミンの強化学習』という手法を上手く利用すると、苦手な科目や食べ物でも克服できるとも言われています。
こうした幾つかの原因により脳疲労が起こりますが、前項でご紹介した電子機器による情報過多が、これらの発生率を飛躍的に高めているのは、想像に難くないところです。
日々性能が向上する電子機器への依存により、目や耳から絶えず情報を得ることで、我々の脳には常にフル回転し、オーバーワークになりがちです。そうすると、ただでさえ燃費の悪い脳はすぐにエネルギー不足に陥ってしまいます。
すると、脳内での情報処理や伝達が上手く行かなくなり、脳機能の低下が起こり、仕事でミスが出やすくなったり、イライラしたりして、過剰なストレスが発生するようになると、体内で一気に疲労物質が蓄積していきます。
休息不足も脳疲労の要因に
近年、脳疲労になる人が増えているもう一つの要因は、睡眠や休日などの休息が不足しがちな点にあります。運動で肉体を酷使した場合、十分に休息を与えてあげないと肉体はいつまでも回復することが出来ず、筋肉などに疲労が蓄積してしまって、すぐ疲れやすくなります。
脳も同じで、毎日睡眠などで十分な休息を取っていれば、一時的な疲労が起こっても、上手に疲労をリセットすることができていて疲労は蓄積することは無いのですが、毎日の休息が充分でないと、疲労が徐々に蓄積していき、いつしか破綻してしまうのです。
現代社会は、会社や学校における過剰なストレスや、忙しすぎる事による睡眠不足で、疲労は貯めやすく休息は取りにくく、いわば脳疲労になるための環境が整っていると言えます。
実際に脳疲労が起こると、どのような症状が現れるのかをご紹介します。
集中力低下/意欲・欲求の低下/判断力低下/思考力低下/作業効率低下/記憶力低下/注意力低下/理解力低下/行動力低下/ストレス耐性低下/コミュニケーション能力低下/ケアレスミスの増加/もの忘れの増加/頭が常にモヤモヤ/食欲増加/味覚鈍化(濃いものを食べたくなる)/感情の鈍化/イライラ…etc
こうしてみると、脳疲労によるメリットはひとつも無いことがわかります。
脳疲労の回復方法
- ・休息
- 蓄積した脳疲労を回復するには、なんといっても休息が一番です。中でも睡眠は最も効果的な休息方法と言えます。睡眠時に発生する『徐波睡眠』という深い睡眠には、成長ホルモンなどが分泌され、脳細胞の修復と再生などを促進する効果があります。
- また、睡眠中は学習したことや経験したことなど、脳が情報を整理する時間でもあり、睡眠が不足すると脳の情報整理がうまくいかないため、学習効果を最大化するためには睡眠は必要不可欠だと言われています。
- さらに、脳は日中フル活動しているため、1日が終わる頃にはかなりの熱を貯めこんでおり、この熱も脳が疲労を感じるの一因もであります。 睡眠には熱くなった脳を冷却する効果もあります。
- 夜の睡眠だけでなく、昼間のたった30分の昼寝でも、午前中に溜まった脳の疲れを効果的に取る作用があります。その他にも、睡眠に至らなくてもリラックスしたりボーっとしている時は、副交感神経系が優位になるため、少なからず脳を休める休息効果を得ることが出来ます。
- ・栄養補給
- 上でご紹介した通り、脳はブドウ糖が唯一のエネルギー源です。脳がエネルギー不足により疲労している場合は、食事によりブドウ糖を補給することで、回復することが出来ます。仕事中に頭が少しつかれた場合など、一時的なエネルギー補給であれば、あめ玉やチョコレートなど甘いもので糖分を補給すると、素早く効率的に脳へエネルギーを補給することが出来ます。
- コーヒーやお茶に含まれるカフェインには、集中力アップや覚醒効果があり、低下した脳の機能を一時的にアップさせる効果があります。また、カフェイン以外にもブドウ糖や様々な栄養素を含んだ、栄養ドリンクも人気があります。ただし、カフェインの効果は一時的に脳を誤魔化しているだけであり、実際に脳の疲労が回復しているわけではないという点を注意する必要があります。
- そして、カフェインには中毒性や血圧上昇作用、体内時計を狂わせる作用などがあるため、多用や盲信は禁物です。
- 日常の食事については、特にブドウ糖のことを気にする必要はありません。ブドウ糖の原料になる炭水化物ばかりを摂るのではなく、タンパク質や脂質、その他ビタミンやミネラルなどのバランスよく摂る必要があります。例えば、鉄分は脳へ酸素を運ぶ赤血球の原料になるため、不足すれば脳が疲労を感じやすくなるなど、脳の働きを助ける有用な栄養素は多くありますので、脳のためにも体のためにもバランスが重要です。
- 尚、どのような栄養素にしても、偏食は一部の内蔵に負担が集中する場合があるのでお勧め出来ません。例えば、タンパク質や脂質は、体内のブドウ糖が不足した際には、ブドウ糖に変化して不足分を補うため、炭水化物不要論や低炭水化物ダイエットなどが流行っていますが、タンパク質を摂り過ぎると肝臓や腎臓に負担がかかりますし、脂質の取り過ぎは動脈硬化や高血圧症、心筋梗塞などの原因になります。
- ・運動
- 脳が疲労する原因の一つはストレスです。適度の運動をすることで、ストレスを解消することが出来ます。また、ランニングやウォーキングなどのリズミカルな運動には、セロトニンと言う脳内の神経伝達物質を合成させる働きがあり、リラックス効果を生みます。
- また、運動をすると肉体が疲労し、体内では活性酸素や疲労物質(ファティーグ・ファクター)が発生しますが、疲労物質が発生すると、同時に疲労から回復するためのファティーグ・リカバー・ファクター(FR,疲労回復因子)という抗酸化作用をもつ物質が生成されます。
- FRは、軽めな運動などで適度な疲労を生じさせることで発生することが分かっており、FRの量が増えれば疲れにくくなることも分かっています。つまり、運動することでFRを増やすと、脳疲労に強い脳を作ることができるのです。
- ・リラックスする
- アロマを炊いたり、好きな音楽を聞いたり、または単に体を休めるだけでも、リラックス効果を得ることが出来ます。リラックスした状態では、副交感神経系が優位に働くため、血管は拡張し血流が良くなります。血流が良くなると、脳への酸素や栄養素の供給がスムーズに行われるため、脳疲労を回復させることが出来ます。
- 逆に慢性的なストレスなどを抱えていると、コルチゾールやノルアドレナリンと言ったストレスホルモンが分泌され、交感神経系が常に優位に働いてしまうため、脳への血流が悪くなってしまいます。実際、ストレスが原因であると考えられているうつ病の患者さんの脳の血流量を測定すると、多くの患者さんの血流量低下が認められたそうです。
- ・血行促進
- 入浴、ストレッチやマッサージ、ツボ、鍼、お灸など様々な血行促進の方法があります。血行を促進することで、脳への酸素と栄養素の供給を改善して、脳疲労を回復させる効果があると言えます。
人工甘味料には注意が必要
メタボの味方、人工甘味料ですが、脳への影響という点では余り良い影響はなさそうです。
そもそも人工甘味料はカロリーが無いのに、甘さを感じるという不思議なものです。これは、舌にある味蕾(みらい)と言う味覚器官が、人工甘味料に含まれる科学物質を「甘い」と錯覚するために起こるのだそうです。
甘いと感じるけれど、実際はカロリー(つまり糖分)がない。脳が疲れた時に、チョコレート(ブドウ糖)の代わりにカロリーゼロの人工甘味料のあめ玉を舐めると、実際に脳にブドウ糖は供給されないのに、「甘い」と錯覚することで、脳はブドウ糖が供給されたと錯覚して、少しの間は満足してしまうのです。
この錯覚作用は、車に例えると危険性がよくわかります。ガソリンで走る車がガス欠近くなった時に、ガソリンの代わりにタダの水を給水したらどうなるか?メーターは一見満タンになったように錯覚しますが、実際にはガソリンは入っていないので、そのまま走り出したら車はすぐに動かなくなります。
(実際に車に水を入れたら壊れます)
人の体でも同じように、ブドウ糖が供給されていないのに供給されたと脳が錯覚すると、一瞬ドーパミンなどの快感物質が分泌されることで、脳に栄養が届いたような気がするのですが、実際は供給されていないため、実際はエネルギーが不足したままの状態で過ごしてしまうので、脳の機能は回復せず低下してしまいます。
他にも、人工甘味料の危険性や副作用については様々な研究が行われていますが、何よりも、カロリーゼロやカロリーオフを謳った人工甘味料が溢れているアメリカが、肥満気味の人だらけになっている現状を見ると、人工甘味料の恐ろしさが何となく理解できるのではないでしょうか。
睡眠不足の影響も
近年、脳疲労増えている要因の一つには、睡眠が不足することで日々の脳疲労回復が不十分であるという点が挙げられます。
睡眠は本来、脳の疲労を解消させる上で最も重要な要素ですが、現代人、特に日本人は世界の中でも睡眠時間が短くなっています。
睡眠が不足すれば、それまでに得た情報の整理が不十分になり、次の日も頭のなかがこんがらがった状態で働いたり勉強したりすることになり、集中出来なかったりストレスが増えたりと、脳を疲れさせる悪循環になります。
情報過多の現代において、脳と体の健康を維持するには、月並みですが、休息、食事のバランス、運動、この3つが如何に重要であるかを再認識する必要があるのです。
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