メラトニンとは眠りを誘う、『睡眠ホルモン』の一種です。メラトニンが分泌されると副交感神経系が優位になり、「脈拍」「体温」「血圧」などが低下して、脳が睡眠の準備が出来たと認識し、自然と眠りに就くことができます。メラトニンが分泌される時間は体内時計と連動しており、昼間はほとんど分泌されず、夕方から夜間にかけて多く分泌されるようになっています。
目次
メラトニンとは
メラトニンは、人の体内時計(概日リズム)と連動して眠りに就く前になると分泌量が急増して、高い催眠効果を持つホルモンで、通称睡眠ホルモンと呼ばれます。
睡眠ホルモンであるメラトニンの分泌量が不足したり、体内時計や自律神経の働きが乱れることで、メラトニンの分泌リズムが狂うと、不眠症などの睡眠障害を引き起こす可能性があります。
▼メラトニンの材料はセロトニン
メラトニンの材料は脳内の神経伝達物質である『セロトニン』です。そのため、ストレスなど何らかの原因によりセロトニンが不足することでメラトニンが不足することもあります。
セロトニンの不足はうつ病の主要な原因として考えられており、『うつ病の発症=セロトニン不足=メラトニン不足=不眠症』と言う間柄から、うつ病の患者の多くはメラトニンが不足してしまうことから、不眠症や睡眠の質の悪化など、睡眠障害の症状が現れる頻度が高くなります。
メラトニンの主な働き
メラトニンの主な働きをご紹介します。
▼催眠作用
メラトニンは脳内の松果体という場所で分泌され、生活リズムに併せて睡眠周期を調整する働きをする睡眠ホルモンです。日中、太陽光を浴びている状態ではメラトニンの分泌は抑制されており、夜間暗くなってくると分泌量が増えていき、睡眠に向かわせる催眠作用があります。
▼体内時計、生活リズムの調整
メラトニンの分泌量は、朝起きてからおよそ15~16時間後の夜間に最大量になるという、タイマーのような特徴があり、このメラトニンの分泌する時間や量を調整しているのが体内時計で、体内時計とメラトニンの働きによって、朝起きて夜眠るという、人の基本的な生活リズムは成り立っています。
不規則な生活習慣や、日中部屋に閉じこもったままで太陽光を浴びないような生活を続けると、自律神経系や体内時計が乱れてしまい、メラトニンをうまく分泌できなくなって、寝るべき時間になっても寝付けない、不眠症状が現れやすくなります。
メラトニンが体内時計を調節する作用が注目され、メラトニンのサプリメントや睡眠薬が不眠症などの睡眠障害の治療や時差ボケの解消に利用されています。
▼細胞の抗酸化作用
メラトニンには抗酸化作用(細胞を酸化から守る働き)があります。抗酸化作用により、活性酸素や一酸化炭素など、フリーラジカルと呼ばれる物質を分解・除去する効果があります。
▼アンチエイジング
メラトニンの抗酸化作用には、細胞の酸化、即ち老化を防ぐ様々なアンチエイジング効果が期待されています。肌の細胞を守って、シミやシワなど肌の老化の防止したり、脳の神経細胞を守ってボケや認知症、アルツハイマー病やパーキンソン病などの認知機能の低下を防ぎます。その他にも、血管細胞を守って、肥満や高血圧症、動脈硬化など生活習慣病などの予防にも役立つと考えられています。
▼免疫力の強化
メラトニンには、強力な免疫細胞であるNK細胞(ナチュラルキラー細胞)を活性化させる作用があるため、メラトニンの分泌は免疫力の強化に繋がります。また、NK細胞が活性化すると、がん細胞の増殖や病状の進行を抑える効果や動脈硬化などの病気を防いだりする働きも報告されており、近年はメラトニンのガン治療への利用研究も進められています。
このように、メラトニンは睡眠の質や生活リズムを調整するだけでなく、細胞の老化を防ぎ、若さや健康を保ったり、病気の予防や抑制、細胞の酸化を防ぐことにまで関わる重要なホルモンです。
メラトニンを分泌する松果体とは
松果体(しょうかたい)は脳のちょうど中心部分に位置する、メラトニンを分泌する器官です。大きさ8mm程度のこの小さな器官が、人の睡眠や概日リズムの調整に重要な役割を果たしています。
▼子どものうちは大きい
松果体は子どものうちは大きく、そのため小さな子どもの睡眠中にはメラトニンシャワーと呼ばれる大量のメラトニンが分泌され、人の体を休息に成長させる働きを持ちますが、成長期が終わるとっ松果体は縮小してメラトニンの分泌量も減少します。
▼概日リズムを形成する
朝、太陽光が目から入ると、松果体はメラトニンの分泌をストップ、脳の覚醒が進みます。この時同時に、セロトニン神経の働きが活性化されます。夜になり太陽が沈んで暗くなると、松果体でメラトニンの分泌が増加していき、睡眠前には最高潮を迎えて自然と眠りに就くことができます。
メラトニンの分泌が活発になると、セロトニン神経は鎮静していき、それに合わせて交感神経系も抑制されていきます。
加齢とともに減少する
メラトニンは、人の一生のうち幼児期に最も大量に分泌され、成長期をピークにその後歳を重ねる毎に分泌量が減っていきます。子供がよく眠るのも、歳を取ると睡眠時間が短くなるのもメラトニンの分泌量が関係しています。
▼現代人は睡眠時間が減少傾向
睡眠は人間の成長や健康維持に重要な役割がありますが、現代社会では、パソコン、テレビ、ゲーム、携帯電話の画面などで夜間でも明るい光を浴びる機会が多く、夜更かしする子供が増え、睡眠時間も遅く、また短くなる傾向にあり、慢性的な時差ボケのような状態で日々を過ごしている人が沢山おり、日中のやる気や集中力の低下などが問題視されています。
こうした睡眠時間が慢性的に少ない生活が続くと、メラトニンの分泌量も低下して、肌が荒れたり、脂肪が溜まりやすい体質になるだけでなく、免疫力が低下して病気になりやすくなるなど、様々なリスクが生じることが考えられます。
メラトニンによる時差ボケ解消効果
メラトニンには、催眠作用によって生活リズムを調節する作用があることから、しばしば時差ボケの治療に利用されます。海外旅行先などで、日本との時差が生じると、人によっては時差ボケによって、現地時間で夜になっても眠気が現れずに、せっかくの旅行が台無し、ということになる場合があります。
現地で夜を迎えるとき、眠りたい数時間前にメラトニンを摂取すると、メラトニンの催眠作用によって、眠りに就きやすくなり、体内時計が調整されて時差ボケの解消も容易になります。
こうしたメラトニンによる時差ボケの解消は、欧米では非常にポピュラーです。街の薬局などでも普通にメラトニンが売られています。また、世界を飛び回るパイロットや、客室添乗員の間でも、メラトニンによる時差ボケ解消は広く行われています。
しかし残念ながら、日本ではメラトニンは薬機法による制限があるため市販されていません。時差ボケ用にどうしてもメラトニンがほしい場合は、旅行先のドラッグストアなどで直接探すか、通販サイトなどで購入する必要があります。
メラトニンを増やすには
メラトニンの分泌を自然に増やすためには、神経伝達物質の一つである『セロトニン』のことを知る必要があります。セロトニンはメラトニンの合成に必要な前駆体です。
セロトニンとメラトニンはそれぞれ自律神経系(交感神経系と副交感神経系)の働きに連動しています。セロトニンとメラトニンは、それぞれ昼間と夜間で交互に活性化される特性があり、昼間に交感神経系が働いている間はセロトニンが優位に働き、夜間に副交換神経が優位になってくるとメラトニンの分泌が増加します。
昼間にセロトニン神経が正常に機能することで、夜間にメラトニンの分泌が促進させます。セロトニンが増えるとメラトニンも分泌しやすくなるため、よく眠れるようになります。
逆に、メラトニンの材料であるセロトニンが不足すると、メラトニンの分泌も減り、中々眠りにつけなくなったり、不眠症などの睡眠障害、また、うつ病などの精神疾病にかかるとも考えられています。
つまり、『メラトニンを増やすには、まずはセロトニンを増やす必要がある』ということになります。
メラトニンとセロトニンとトリプトファンの関係
メラトニンを増やすために必要なセロトニンは、トリプトファンという必須アミノ酸が原料となって生成されます。トリプトファンがメラトニンやセロトニンの大元の原料であるといえます。これらメラトニン、セロトニン、トリプトファンには以下のような関係が成り立ちます。
- トリプトファン
- 必須アミノ酸。セロトニンを生成するために必要。人体内では生成できず、食べ物から摂取する必要がある。肉や魚、大豆などの、タンパク質を含む食材に多く含まれています。
- ↓(セロトニンの材料になる)
- セロトニン
- 「ノルアドレナリン」や「ドーパミン」と並んで、体内で特に重要な役割を果たしている三大神経伝達物質の一つ。
- セロトニンは人間の精神面に大きな影響与える神経伝達物質で、 セロトニンが不足すると、うつ病などの精神疾患に陥りやすいと言われている。
- ↓(メラトニンの材料になる)
- メラトニン
- 睡眠ホルモン。分泌されると眠くなる。睡眠以外にも生活リズムの調整や、美肌や健康維持、病気の予防などに深く関わるホルモン。メラトニンが不足すると不眠症や眠りが浅くなることも。
上記の関係からわかるように、メラトニンを増やすためにはセロトニンを増やす必要があり、セロトニンを増やすためには、トリプトファンを摂取する必要があるのです。
特に、トリプトファンはセロトニンやメラトニンを増やすための原材料ですが、人体内では生成されないため、食事で体内に摂取する必要があります。「トリプトファンが不足すれば、セロトニンもメラトニンも不足する」という事になります。ダイエットをする場合や、好き嫌いが多い人は、食材にも気を配ったほうが良いでしょう。
詳しくは『トリプトファンを多く含む食品』をご覧ください。
メラトニンと成長ホルモン
人はメラトニンの催眠作用により、眠りに就きます。睡眠中には成長ホルモンというホルモンが分泌されます。
成長ホルモンの主な効果は、一般的によく知られているような『子供の成長を促す(骨や身長を伸ばすなど)』だけに留まらず、大人にとっても細胞の再生、病気への抵抗力の維持、若さや健康を保つ、脂肪の燃焼など、我々の身体に様々な有益な効果があります。
大人にとっても、成長ホルモンが十分に分泌されないと、太りやすくなったり、肌が老化したり、疲れがとれない、病気になりやすい、など我々の身体機能に大きな影響を及ぼします。
成長ホルモンは睡眠中に分泌されますが、特に入眠直後の2時間くらいの間に発生する、徐波睡眠という深い眠り(ノンレム睡眠)の際に多く分泌されます。
そのため、成長ホルモンをしっかりと分泌させるには、『質の良い深い睡眠』をとる必要があります。また、質の良い深い睡眠をとるにはメラトニンが十分に分泌される必要があることから、この2つのホルモンは非常に深い関わりがあることがわかります。
詳しくは『睡眠と成長ホルモン』、また『メラトニンと成長ホルモン』をご覧ください。
メラトニンの分泌を減らすもの
心地よい眠りへと誘ってくれるメラトニンですが、そんなメラトニンの分泌を妨げてしまうものをいくつかご紹介します。就寝前の強く眩しい光や、脳や体が興奮するような運動や行動、イライラを生むストレスなどはメラトニン分泌の大敵です。
▼眠る前の強い光
メラトニンの分泌は目の網膜から伝わる光の刺激によって影響を受けるため、睡眠前のまぶしい光はご法度です。
特にスマホやパソコン、テレビなどの電子機器から発せられる光には、ブルーライトという脳を覚醒させる作用のある光が含まれているため、眠る前にそうした電子機器の光を目から浴びると、メラトニンの分泌が妨げられてしまう可能性があります。
また、室内の照明にLEDを使用している場合、種類によってはブルーライトを多く発するLEDがあるため、これも注意が必要です。寝室等の照明は暖色系の色にして、電球を直接浴びないように間接照明を使ったり、ブルーライトを減らすメガネなどもうまく使うと良いでしょう。
▼交感神経系の興奮
メラトニンは自律神経系のうち、副交感神経系の働きが強くなることによって分泌が促進されるため、副交感神経系の働きを妨げる、交感神経系の興奮は、メラトニンの分泌が阻害される可能性があります。
交感神経系が興奮しやすい「激しい運動」、「熱すぎる風呂やシャワー」、「お酒やタバコ」、「テレビゲーム」、「スマホ」などは、睡眠の数時間前までには全て終了させましょう。
▼ストレス
ストレスは交感神経系を興奮させてしまう大きな原因です。環境によっては、壁が薄くて隣の家の物音がうるさかったり、車通りの激しい街道沿いで、毎晩トラックの騒音によるイライラのストレスを抱えている人もいます。
会社や学校での人間関係のトラブルは現代社会に特に多いストレスの一つです。人間関係のストレスは、その人が近くにいる限り付きまとうため、すぐに解消することができない厄介なストレスです。
過去のトラウマや強いストレス経験からくるPTSD、将来の生活に対する強い不安や恐怖など慢性的なストレスとして、深夜になってもメラトニンが分泌されず、寝付けなくなる要因となってしまうことがあります。
▼自律神経系の乱れ
自律神経系とは、交感神経系と副交感神経系からなる、呼吸や脈拍、筋肉や内臓の動き、体温調節など、無意識のうちに働く体の仕組みのことです。
本来、夜間のメラトニンが分泌されて眠くなる時間帯は、副交感神経系が優位に働く時間帯で、脳や体もリラックスした状態になります。ところが、何らかの原因で自律神経系のバランスが乱れると、夜になっても交感神経系が興奮したままで副交感神経系が働かず、イライラ、ドキドキ、悶々として、気分が落ち着かず、メラトニンが分泌されにくい状態になってしまいます。
自律神経系のバランスが乱れる原因はいくつかあり、最も大きな原因の一つがストレスです。
また、自律神経系の働きが慢性的に乱れた状態を総じて自律神経失調症と言い、その中には起立性調節障害のような様々な症状があり、多くの場合でメラトニンが分泌されにくくなることから、不眠症を起こしたり、寝付きが悪い、眠りが浅い、朝が起きるのが辛い、日中にはめまいや立ちくらみを起こす、耳鳴りがする、と言った様々な体調不良も起こります。
メラトニンの副作用
人体に様々な有益かつ重要な効果のあるメラトニンですが、少なからず副作用も存在します。
- 悪夢
- 血圧の低下
- 吐き気、腹痛
過剰摂取や体質などにより発生する場合があります。 - 睡眠障害
サプリなどで摂取する場合、用法や用量を誤るなどすると、体内時計が乱れる場合があります。
また、これらの副作用以外にも、14歳以下の子供や妊婦、授乳中の女性などが使用する場合は専門家の指導が必要とされています。尚、それ以外の方についても、メラトニンは日本国内においては医薬品として定義されているため、海外のサプリメントなどを服用する場合でも医師など専門家のアドバイスや指導の下、用法や用量を守ってご利用いただく事を強くお勧めします。
メラトニンのサプリ摂取について
メラトニンには催眠作用や抗酸化作用があるため、サプリで人工的に摂取することで不眠の症状を和らげる、肌荒れを防ぐなどの効果が期待されます。
アメリカではメラトニンは医薬品としてではなく、栄養補助食品、いわゆるサプリメントとして広く販売されていますが、日本国内では、極一部の製品がメラトニン受容体に働きかける不眠症治療薬または睡眠薬として認可を受けているものの、薬機法の規定により、原則として製造・輸入・販売が制限されています。
尚、アメリカなど海外からの個人輸入品としてメラトニン含有のサプリメントがインターネットを中心に流通しています。