女性の更年期障害とは、閉経前後の女性に発生する女性ホルモンの分泌減少と、それによって起こる自律神経系の乱れより発生する身体的、精神的な様々な症状の総称です。更年期障害は閉経によって女性ホルモンの『エストロゲン』の分泌が低下することで発生するとされ、女性のうち2割~3割に発生するとされます。
目次
更年期障害が起きやすい年齢
更年期障害が起きる年齢は人によって個人差がありますが、日本人の平均的な閉経年齢が50歳前後なので、50歳前後の年齢(40代後半から50代前半)で更年期障害を起こす人が多くなります。
ただ、『若年性更年期障害』と呼ばれる、20代や30代の若い人の場合でも、更年期障害の症状が現れることがありますので、若くても更年期障害の症状と似た症状が現れた場合は、早めに医師に相談した方が良いでしょう。
▼症状が続く期間は人により異なる
通常、更年期障害は時間の経過とともに症状が収まっていきますが、更年期障害の症状がいつまで続くかは、人によって期間が大きく異なります。短い人では1年ほどで症状が収まることもありますが、長い人になると10年以上経過しても、症状が続く場合があるようです。
また、更年期障害の症状は、時間の経過で収まる場合だけでなく、ストレスの蓄積などによって悪化する場合もあります。体調に異変を感じた場合は放置せず、お早めに医師の診察を受けましょう。
尚、更年期障害は女性だけでなく男性でも起こすことがあります。詳しくは男性の更年期障害をご覧ください。
更年期障害の症状
更年期障害で起こる症状は人によって異なります。起こりやすい症状を身体症状と精神症状に分けて紹介します。
▼起こりやすい身体的症状
発汗/ほてり/胸のハリや痛み/肩こり/腰痛/頻脈/めまいやふらつき/倦怠感/耳鳴り/頭痛/抜け毛・薄毛/体の冷え/吐き気/喉の渇き/便秘・下痢/骨が弱くなる・骨粗しょう症/肥満/高血圧/頻尿・尿もれ/肌のシミ・シワ・たるみ/加齢臭の悪化
▼起こりやすい精神的症状
イライラ/不安/悲しみ/無気力/記憶力の低下/抑うつ症状/寝付きが悪くなる・眠りが浅い/日中の眠気
更年期障害の原因
更年期障害が起こる原因は、「ホルモンバランスの乱れ」、「自律神経系の働きの乱れ」で起こると考えられており、また更年期障害によって増加する「ストレスによって症状がさらに悪化」してしまいます。
ホルモンバランスの乱れ
そもそも『更年期』とは、女性の場合は『閉経(月経の停止)を迎える時期』を指します。閉経の前兆として、月経周期が遅くなる、経血が減る、不正出血が増える、など人によっていくつかの症状が現れることがあります。
閉経は、卵巣の機能低下によって起こるため、それまで卵巣から分泌されていた女性ホルモンであるエストロゲンやプロゲステロンの分泌量も低下します。
エストロゲンやプロゲステロンの分泌量が低下すると、それらのホルモンによって担われてきた様々な作用が損なわれてしまい、一義的にはこうしたホルモンバランスの乱れが、更年期障害の原因となっています。
ストレスによる症状の悪化
更年期障害によって起こるホルモンバランスの乱れは、イライラや不安、抑うつなどの精神的なストレスを生みます。また、身体的にも発汗やほてり、吐き気や抜け毛など、それまでとは大きく体質や体調が変化することが、大きなストレスになります。
更年期障害によって起こるストレスの増加は、更年期障害の症状を悪化させてしまいます。さらに、ストレスは自律神経系の働きを乱す原因ともなり、さらなる症状悪化にもつながってしまうのです。
自律神経系の乱れ
更年期障害で自律神経系の乱れが起こる理由は、ホルモンバランスの乱れとストレスの増加にあります。
▼ホルモンバランスの乱れ
エストロゲンをはじめとする多くのホルモンは、体内の内分泌系のうち、とりわけ脳内の『視床下部』にある『内分泌系の中枢』によって分泌量がコントロールされています。視床下部には様々な身体機能の中枢が存在しており、自律神経系もその一つです。
同じ視床下部にある内分泌系と自律神経系の働きには密接な関わりがあり、呼吸、脈拍、血圧、血糖値の維持、内臓の働きなど、生命活動を維持する上でお互いが影響を及ぼしあっています。
そのため、内分泌系の働きが乱れると、内分泌系と連携している自律神経系の機能も乱れやすくなってしまうのです。
このような流れで、更年期障害が起こるとホルモンバランスが乱れ、自律神経失調症の症状が現れやすくなると考えられます。
逆に、自律神経系が内分泌系の働きを乱すこともあります。そのため、閉経による更年期障害が起こる前でも、ストレス等により自律神経系の働きが低下すると、内分泌系の働きも低下してホルモンバランスが乱れ、「PMSの悪化」につながります。
▼ストレスによる症状の悪化
ホルモンバランスの乱れは、ストレスの増加にも繋がります。ストレスが増加すると、副腎皮質から分泌されるストレスホルモン『コルチゾール』の分泌量が増加します。
コルチゾールには、自律神経系のうち交感神経系を興奮させる作用があるため、コルチゾールの分泌量が慢性的に増加すると、交感神経系が興奮したままの状態が続いてしまい、自律神経系の働きがバランスを失って、自律神経系の働きを乱してしまうのです。
このように、ホルモンバランスの乱れやストレスの増加によって、自律神経系の働きが乱れることで、更年期障害の症状は大きく悪化してしまうのです。
ストレスがセロトニンの不足にも
ストレスによって増加するコルチゾールは、自律神経系の働きを乱すだけでなく、脳内で働くセロトニン神経の働きを抑制してしまいます。
セロトニン神経の働きが抑制されると、そこで合成されるセロトニンの合成量も減少して、セロトニンが不足してしまいます。
セロトニンは、精神の安定に大きく影響を与える神経伝達物質ですから、セロトニンが不足すると、ネガティブな感情が現れやすくなったり、感情が暴走するなどして、更年期障害の症状を悪化させる一因となってしまいます。
詳しくは『更年期障害はセロトニンが不足しやすい』をご覧ください。
更年期障害の症状を抑えるには
更年期障害の根本的なの原因となっているのは、閉経による『エストロゲンの分泌量減少』とそれによって生じる『ストレスの増加』や『自律神経系の乱れ=交感神経系の興奮』などです。
そのため、根本原因をしっかりとケアすることができれば、更年期障害の症状はある程度軽減させることが出来る可能性があります。
エストロゲンの分泌量減少を補うには
体内でエストロゲンを分泌する機能をになっているのは卵巣です。更年期を迎えると卵巣の機能低下が起こり、卵巣でエストロゲンを分泌する力は大きく損なわれており、体内で新たにエストロゲンを作り出すのは難しい状態であるといえます。
体内でエストロゲンを作り出すことができないのであれば、体外から補うしかありません。
エストロゲンを補う最もポピュラーな方法は、エストロゲンに似た機能を持つ、『イソフラボン』を摂取することです。イソフラボンは、豆腐や納豆など、大豆製品に含まれる物質で、大豆イソフラボンや植物性エストロゲンなどとも呼ばれます。
また、イソフラボンに含まれる成分であるダイゼインは、腸内で腸内細菌のちからを借りてエクオールという物質へと変化することが明らかになっています。エクオールは、通常のイソフラボンよりも高い代替効果を持ち、更年期障害の症状改善に効果が高い物質であると言われています。
しかし、体内でイソフラボンからエクオールを作り出すには、エクオール産生菌という特定の腸内細菌が腸に生息している必要があり、日本人の場合は、およそ2人に1人程度しかエクオールを体内で作り出すことができないそうです。
効率的にイソフラボンやエクオールを摂取したい場合は、サプリメントなども効果的かもしれません。
ストレスを抑える
更年期障害の症状によるストレスの発生を抑えるには、交感神経系の興奮を抑えることが重要です。交感神経系は脳や体の興奮を促し、身体が緊張した状態を作り出します。
体の緊張状態を抑えるには、リラックスした状態を多く作り、「副交感神経系を刺激する」ことが効果的です。
副交感神経系を刺激するには、いくつかの方法があります。
▼睡眠・休息
十分な睡眠と休息は、ストレスケアにおいて最も重要です。睡眠時は副交感神経系が優位に働き、交感神経系の高ぶりを抑えてくれるため、ストレスの解消に役立ちます。
▼映画などで感動する・泣く
映画やテレビ、本を読むなどして感動したり泣いたりすることは、交感神経系の興奮を抑えて、副交感神経系を刺激することに繋がります。
▼運動する
運動をしているときは交感神経系が優位になりますが、運動後にゆっくりと休息を取ることは、副交感神経系が働きやすい環境を作ることに繋がります。また、運動はそれ自体がストレスの解消や健康維持にも効果的です。
▼美味しいものを食べる
美味しいものを食べると、満足感や満腹感により副交感神経系が刺激されます。また、食事によって胃腸の働きが活性化することも、副交感神経系の刺激に繋がります。
▼音楽を聴く
音楽を聴いてリラックスした状態になると、アルファ波という脳波が増えて、副交感神経系を優位な状態にしてくれます。アルファ波は、更年期障害で衰えがちな集中力ややる気などを引き出すことにも繋がります。
▼腹式呼吸
意識的に呼吸をすることは、副交感神経系を刺激するのに効果的です。特に、腹式呼吸は瞑想などでも用いられるように、意図的に深いリラックス状態に入るために必要不可欠です。
丹田呼吸法と呼ばれる腹式呼吸の一種により、セロトニン神経を鍛えることもできます。→詳しくは『セロトニンを増やす呼吸法』をご覧ください。
DHEAを増やす
副腎で合成されるDHEAというホルモンは、女性ホルモンのエストロゲンの前駆体となるホルモンです。
エストロゲンは本来、卵巣でほとんどが合成されますが、副腎でもわずかに合成されています。更年期に差し掛かると、卵巣でのエストロゲンの合成が減少してしまうため、副腎で分泌されたDHEAから合成されるエストロゲンは非常に貴重な女性ホルモンとなります。
更年期に差し掛かり、卵巣からのエストロゲンの供給が減少したとき、副腎の機能をしっかりと保ち、エストロゲンの原料となるDHEAの合成を一定量保つことで、更年期障害の症状を軽減出来る可能性があります。
詳しくは『DHEAを増やすには』をご覧ください。
まとめ
更年期障害が起こる流れは次の通りです。
閉経(50歳前後)
↓
エストロゲン減少
↓
ホルモンバランスが乱れる
↓
更年期障害の症状発生
↓
ストレスが増加する
↓
更年期障害の症状悪化
↓
自律神経系が乱れる
↓
更年期障害の症状がさらに悪化
なかでも、ストレスが更年期障害の悪化に大きく関与しているため、更年期障害の症状にお困りの方は、仕事や人間関係など、生活の中にあるストレスを取り除く、ストレスから遠ざかる、そしてストレスを解消することを心がけて頂ければと思います。
ストレスを解消するには、高い抗ストレス作用を持つセロトニン神経を活性化させることが重要です。セロトニン神経を活性化させるには、セロトニンを増やす方法をご覧ください。
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