食欲とは人間の三大欲求のひとつでもあり、生命を維持する上で非常に重要な欲求です。食欲のバランスが崩れると、拒食症や過食症に繋がります。食欲のバランスを保つ上で必要不可欠な働きをしている物質のうちの一つが、脳内の神経伝達物質であるセロトニンです。セロトニンと食欲の関係についてご紹介します。
食欲を司る摂食中枢と満腹中枢
食欲を制御するのは脳内の視床下部にある摂食中枢(空腹中枢)と満腹中枢の二つです。
摂食中枢は「お腹が空いた」と空腹を感じさせて、食事を促す働きをします。満腹中枢はものを食べて「お腹が一杯だ」と満腹を感じさせる働きをしています。
セロトニンの食欲への作用
セロトニンは摂食中枢を抑制、また、満腹中枢を刺激する形で作用します。
▼空腹を我慢
摂食中枢を抑制すると食欲が抑えられます。セロトニンは空腹による食欲の増加を抑え、食事と食事に間の時間が空いても空腹を我慢することが出来るように働きます。
▼食べ過ぎを防ぐ
満腹中枢が刺激を受けると食欲が収まります。セロトニンは食事をして血糖値が上がると、満腹中枢に刺激を送り、「お腹が一杯になって満足したので、これ以上食べるのを止めよう」という信号を出させてくれます。つまり、セロトニンは「食べすぎ」を防いでくれているのです。
空腹ストレスとセロトニンの働き
動物は食事をすることで生命を維持しており、空腹を放置すれば、身体が弱って外敵に襲われやすくなりますし、やがては栄養失調で死に至ります。
空腹は一種の危険信号であり、空腹が続くことは、それ自体が強いストレスになります。
ストレスが起こると、人の体はストレスに対抗するために血圧を上昇させたり血糖値を上昇させてストレスに対抗しようとします。このとき働くのがノルアドレナリンやコルチゾールと言ったストレスホルモンです。
また、空腹が続けば続くほど、食欲は増大していき、欲求を司るドーパミンの放出が増えます。
こうして空腹によるストレスは、ノルアドレナリンやドーパミンの活動を活性化させ、激しいイライラや衝動を感じやすくなります。こうしたドーパミンやノルアドレナリンの暴走を防いでくれるのがセロトニンです。
セロトニンは空腹時のストレスによって、ドーパミンによる食欲増大やノルアドレナリンによるイライラが起こるのを抑制し、空腹でも平常心を保てるように働きます。
セロトニン不足と摂食障害
平常時には食欲を抑えてくれるセロトニンですが、何らかの原因でセロトニンが不足してしまうことがあります。セロトニンの不足が起こると、過食または拒食などの、摂食障害の症状が現れやすくなります。
摂食障害はいずれもセロトニン不足によって起こりやすい症状です。
▼セロトニン不足で過食になる
セロトニンが充足していたときはセロトニンが摂食中枢を抑制してくれていたため、適度に食欲をコントロールすることが出来ていました。しかし、セロトニンが不足することによって歯止めが効かなくなり、ドーパミンによる食への欲求が暴走して過食に走りやすくなります。
尚、ストレスによって起こるドーパミンの暴走は食だけでなく、タバコ、アルコール、ギャンブル、薬物などへの依存症という形で起こります。
▼セロトニン不足で拒食になる
セロトニンの不足時に起こる拒食は、端的に言えば食欲が涌かない状態です。こうした拒食が起こる原因のひとつは、食への興味の喪失、食べることが楽しくない、とった意欲の減退です。
意欲の減退はセロトニンが不足したときに同時に起こりやすい、ドーパミンの不足によってもたらされます。ドーパミンは物事への興味やモチベーションを司る神経物質で、ドーパミン神経が弱ると物事への興味が損なわれやすくなります。
セロトニンが不足するような慢性的なストレスが続く状態は、同時にドーパミンやノルアドレナリンなども不足しやすくなるのです。
ストレスがセロトニン不足の原因
こうした摂食障害やセロトニンの不足を招く最も大きな原因は、ストレスです。現代社会では様々なストレスが溢れており、そのストレスが自律神経系を乱し、セロトニン神経系を乱し、食欲も乱れてしまうのです。
ストレスは、人間関係、仕事、家庭、学校、など様々なところにあふれていますが、女性が特に注意しなくてはならないのが、ダイエットです。
食事の制限を伴うダイエットは、空腹に耐える必要があるため、それ自体がストレスを抱えやすく、長い目で見るとストレスによって、セロトニンの不足を起こして、どか食いやリバウンドと言った、体重の増加や、拒食症などの摂食障害を起こしやすくなります。
見た目の細さや美しさを追求することももちろん大切ですが、ほんとうの意味でダイエットを成功させるには、同時に精神的な健康(セロトニンの合成)を維持することも大切なのです。
セロトニンとインスリンの関係
血糖値を抑制する唯一のホルモンであるインスリンは、セロトニンの原材料である『トリプトファン』が脳内へと取り込まれるのを促進する働きをしています。
セロトニンは、すい臓の「β細胞」というインスリンの分泌を制御している細胞の働きを促進させる作用があります。そのため、セロトニン神経が弱ってセロトニンの合成が減少すると、インスリンの分泌が抑制されることや糖尿病を起こしやすくなると言われています。
また、インスリンの分泌低下で起こる糖尿病は、同時にインスリンの分泌低下によってトリプトファンの脳への取り込みが減少するため、セロトニン不足によって起こると考えられているうつ病を併発しやすいという点も、インスリンとセロトニンに深い関係があることの証左です。
女性の妊娠中は、女性ホルモンの影響や精神的なストレス、肉体の変化などによりセロトニンが不足しやすくなりますが、妊娠中の妊婦さんが起こす「妊娠糖尿病」にもセロトニンの不足が何らかの影響を与えている可能性があります。
photo credit: woodleywonderworks last real meal: GIANT burrito (license)
- 参考文献
- 厚生労働省 e-ヘルスネット – セロトニン
- 国際生命情報科学会誌 – セロトニン神経活性化の臨床的評価:脳波α2成分の発現
- NCBI – PMID:1752859
- NCBI – PMID:25108244
- Wikipedia – セロトニン