人の体温は、一日のうちで朝と夜ではおよそ1℃程度変化があります。人の体温変化には自律神経系働きが大きく関与していますが、その大元を詳しく見るとセロトニンが体温の変動と調節に作用していることがわかります。
セロトニンの体温調節作用
一般的な人の体温は明け方に最も低く、夕方頃に最も高くなります。実は、一日を通した体温変化はセロトニン神経の活動と一致しており、セロトニンの働きが体温の変化に影響を与えていることが分かっています。
セロトニンは夜間寝ている間はほとんど働かず、朝起きて脳が覚醒すると同時に活性化します。日中の活動量がピークになる夕方頃にセロトニン神経が最も活発になり、夜の就寝に向けて次第に活動が抑制されていきます。
セロトニンの一部は血中の血小板の中に格納されています。気温の変動などによる、血液の温度変化をセロトニンが脳の視床下部にある『体温調節中枢』に伝え、体温を上げたり下げたりと調節が行われます。
そのため、セロトニンが不足していると、この情報が体温調節中枢に正しく伝わらず、体温の調節機能が狂いやすくなります。
体温調節中枢とは
体温調節中枢とは、熱放散(発汗、血管を収縮させて血流を増やす)や熱産生(ふるえ、代謝機能の促進、血管を拡張させて血流を減らす)を行うことで、体温を一定の範囲内に調節する働きをしている自律神経系の働きのひとつです。
ストレスなどで自律神経系の働きが乱れると、体温の調節がうまくできなくなり、低体温や冷え性を起こしたり、逆に高体温になることもあります。
自律神経系の働きが乱れないように、バランスを保つ中核的な働きをしているのがセロトニンです。セロトニンはストレスによる脳の過度の興奮や鎮静を抑えて、精神が安定するような作用をもっています。
セロトニンによる交感神経系の刺激
セロトニンは自律神経系のうち交感神経系を刺激する作用があります。交感神経系は人が日中に活発に活動するために働く神経で、筋肉を収縮させて体温を高く保ちます。こうした神経系の働きをセロトニンが支えています。
特に抗重力筋と言われる、重力に逆らって姿勢を維持するために必要不可欠な筋肉(腹筋や背筋など)の働きをセロトニンは支えており、セロトニンが不足すると体温が慢性的に下がって低体温や冷え性を起こしやすくなるだけでなく、姿勢が悪くなったり顔の表情筋が衰えて老けた暗い顔になりやすくなります。
こうしたセロトニン神経の働きが衰えたり、セロトニンが不足すると、交感神経系の働きは悪くなり、
女性の冷え性とセロトニン
女性が冷え性を起こしやすいのは、いくつか原因があります。
ひとつは『筋肉量』が男性よりも平均的に少ないこと。筋肉は体温調節に不可欠な熱産生のおよそ6割ほどを担っており、筋肉量が少ないとその分熱を産生する能力が低くなってしまい、体温が低くなりやすいのです。
もう一つは『セロトニンの量』です。女性は男性に比べると、脳内でセロトニンを合成する能力が半分程度しか無いとされています。これは月経周期と女性ホルモンの分泌の乱れなどによって影響を受けていると考えられています。
こうした女性の冷え性を改善するには、やはり運動が一番です。
運動をすると直接エネルギーが消費され熱産生が起こります。また、筋肉量も増加して熱産生能力が高まります。さらに、運動はセロトニン神経を活性化させる効果があり、不足しがちなセロトニンを増やす効果も期待でき、長期的に運動を続ければ冷え性も解消しやすくなります。
- 参考文献
- 厚生労働省 e-ヘルスネット – セロトニン
- 国際生命情報科学会誌 – セロトニン神経活性化の臨床的評価:脳波α2成分の発現
- NCBI – PMID:1752859
- NCBI – PMID:25108244
- Wikipedia – セロトニン