成長ホルモンには、身長を伸ばす、疲労回復、免疫力の正常化、美肌やアンチエイジング、脂肪分解、毛根発育、等様々な効果がありますが、裏を返すと、成長ホルモンの分泌が不足すると、これらの効果も損なわれる可能性があるのです。

成長ホルモンが不足したときの症状

疲れやすい
成長ホルモンは、疲労・消耗した体組織の修復や再生をする働きがあり、不足することでこうした働きが損なわれて、疲れやすい、疲れが取れない、といった症状が現れやすくなります。特に、近年ではデスクワークが増え、体の疲労だけでなく、脳が疲労する脳疲労も増えてきました。

ストレスの蓄積・抑うつ症状
体に溜まった「疲労」は、ストレスとして脳に蓄積しやすく、慢性的に成長ホルモンが不足すると、ストレスも解消されずに溜まりやすくなります。また、ストレスが溜まることで、無気力、無関心、やる気の低下といった、抑うつ症状が現れやすくなります。

血中コレステロール値の上昇と体脂肪の増加
成長ホルモンは、体組織を修復する際に、脂肪などの栄養素をカロリーに分解して使用します。成長ホルモンが減ると、細胞等の修復が滞り、脂肪分解も行われにくくなるため、血中にはコレステロールが増え、体脂肪も増加しやすい傾向があります。

骨密度の低下
成長ホルモンは、体内の様々な組織の修復と再生を行います。骨組織もそのひとつで、成長ホルモンが不足することで、骨組織の修復も不活性化し、骨密度の低下を招きます。これが悪化すると、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)にもなります。

傷が治りにくい
成長ホルモンが不足することで、創傷や骨折など、傷の治りも遅くなります。

免疫力の低下
成長ホルモンは、体の様々な組織を修復することで、肉体の持つ免疫機能の維持に寄与しています。中でも、腸には腸管免疫といって、人の免疫機能のおよそ6割ほどが集中していますが、その腸管免疫を支える、腸壁の無数の細胞は、体内でも最も新陳代謝が活発な場所で、その代謝を促すのが成長ホルモンであります。つまり、成長ホルモンが不足すれば、腸管免疫の機能が低下して、体の免疫力が低下する恐れがあります。免疫力が低下すると風邪を引きやすくなるだけでなく、これが長期に及ぶと、ガンや心筋梗塞などの重大疾病にまで繋がる可能性もあります。

肌荒れ・抜け毛
我々の暮らしと成長ホルモンの関係で最も気になるのが、肌や髪の毛など、老化への影響です。成長ホルモンは、先に挙げた骨や腸の細胞だけでなく、皮膚や毛根などの組織の修復・再生に影響を与えるため、成長ホルモンの分泌が不足すれば肌にしみやしわが増え、ほうれい線は深くなり、髪の毛の量は減りやすくなります。これはいわゆる『老化現象』でもあります。

成長ホルモンが不足する原因

成長ホルモンが不足する原因は、我々の日常生活の中に潜んでいます。

睡眠不足・睡眠の質の低下
いわゆる睡眠不足は、成長ホルモンが不足する最も大きな要因です。成長ホルモンは睡眠中に特にたくさん分泌されることが知られており、睡眠が不足することで、成長ホルモン分泌の絶対量も減ってしまいます。また、見落としがち名のが、「長く眠れば良い」というものではないということです。

成長ホルモンは、睡眠中に発生する深い睡眠(徐波睡眠)のときに多く分泌されます。従って、成長ホルモンが分泌されるのに重要なのは、「睡眠時間の長さ」では無く、「睡眠の質」です。

眠りが浅いとか、睡眠中に何度も目覚める、など睡眠の質が低下している人は、睡眠時間も長くなる傾向がありますが、睡眠の質が悪いと、その分成長ホルモンの分泌は減ってしまいます。

食生活の乱れ
人の体は、食事から得る栄養素を胃腸で消化・吸収することで、維持されています。成長ホルモンも食事から得られるアミノ酸が原料となって作り出されます。アミノ酸は、肉や魚、豆などに多く含まれている、たんぱく質から分解されますが、ダイエット、好き嫌い、食事を抜く、偏食など、栄養バランスの悪い食生活を送ると、成長ホルモンの原料となるアミノ酸も不足してしまう可能性があります。

特に女性の場合は、ダイエットのために肉や魚などを避ける傾向がありますが、これでは成長ホルモンが不足して、肌があれてしまいますし、成長ホルモンの持つ脂肪燃焼効果も得られなくなるので、かえって脂肪を溜め込みやすい体質になりかねません。

また、成長ホルモンの原料となるアミノ酸は、腸内に生息する腸内細菌によって分解が促進されています。食生活が悪いと、腸内環境がみだれて、腸内細菌も減りやすくなり、アミノ酸の分解量が減ります。すると成長ホルモンが減ってしまい、成長ホルモンによって行われるはずの腸壁細胞の代謝や修復も滞り、また腸内環境の悪化に繋がる、という悪循環も生まれます。

食事は、睡眠と並んで、成長ホルモンの分泌を保つ大きな要因であるといえます。

運動不足
運動をすると、筋肉や骨などの体組織が疲労し、破壊されます。これを修復するために分泌されるのが成長ホルモンですが、運動自体をしなくなると、成長ホルモンも分泌される必要性がないため、分泌されなくなります。こうして運動が不足すると、成長ホルモンの分泌も減り、脂肪が増えたり、高血圧症やメタボリックシンドロームに陥りやすくなります。

月経や妊娠、出産や閉経など
女性の場合、男性よりも成長ホルモンが不足しやすい場面があります。女性特有の妊娠や出産などのライフイベントによって、ホルモンの分泌バランスが乱れやすく、こうしたタイミングで成長ホルモンの分泌にも大きな影響が出やすくなるのです。

自律神経系の乱れ
成長ホルモンは、自律神経系のうち、副交感神経系の働きによって分泌が活性化されます。副交感神経系は、ゆっくり休んで心身がリラックスしている時や、眠っているときに活性化されます。

ところが、自律神経系の乱れ、特に交感神経系の働きが過剰になると、副交感神経系の働きは衰え、体はいつでも緊張した状態になって、成長ホルモンも分泌されにくくなります。交感神経系の昂ぶりは、例え夜の睡眠中でさえも起こることがあり、寝付きが悪くなったり、眠りが浅くなるなど、不眠傾向が強く現れます。

こうした自律神経系の乱れが起こる原因は、多くの場合ストレスが関係しています。ストレスによる自律神経系の乱れは、成長ホルモンの分泌が減るだけでなく、自律神経失調症やうつ病・不眠症などの精神疾患などを発症するリスクや、現代の生活習慣病と言われる多くの疾病にも関係していると思われる、非常に厄介な存在です。

老化
成長ホルモンの分泌量は、生まれてから成長とともに増えていき、思春期をピークに20歳前後から加齢とともに徐々に減少していきます。成長ホルモンの分泌量の減少によって起こる症状は、老化現象そのものでもあります。歳とともにシワやシミが増え、体は小さくなり、腰が曲がり、髪が抜けて、病気に罹りやすくなるのも、成長ホルモンの分泌量が減っていくのが、ひとつの原因でもあり、自然の理とも言えます。

その他疾病等
成長ホルモンが分泌される、脳の下垂体という場所の腫瘍、障害や炎症など何らかの異常や、遺伝的要因などによっても、成長ホルモンの分泌が不足する場合があります。成人の場合、何らかの原因により成長ホルモンが正常に分泌されない症状を、『成人成長ホルモン分泌不全症(成人GHD) 』と呼び、保険診療による治療の対象となります。

★次のページでは『昼寝で成長ホルモンは分泌されるか』をご紹介します。

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