アドレナリン(adrenaline,別名:エピネフリン)とは、副腎髄質から分泌されるホルモンで、生命の脅威など、ストレスに反応して分泌されるため、俗にストレスホルモンと呼ばれます。アドレナリンは交感神経系を刺激し、血圧や心拍数、血糖値を上昇させ、精神を興奮させて筋肉を増強して運動能力を高める作用があります。
アドレナリンとエピネフリン
アドレナリンには、エピネフリン(Epinephrine)という別名があります。
呼び方が異なるものの、「アドレナリン」と「エピネフリン」は、同じ物質を指す言葉です。アドレナリンは英名、エピネフリンは米名、つまり、アメリカで主として使われる名称です。ちなみにアドレナリンは英語で「副腎」、エピネフリンはギリシャ語で「副腎」を意味する言葉で、言葉の意味も同じです。
エピネフリンという名前は日本では一般的には馴染みがない言葉ですが、医療機関では長い間エピネフリンという言葉が使われてきました。医療ドラマなどで、心肺蘇生のときなどに使われる、「エピ」と言うのもエピネフリンのことです。(現在はアドレナリンに改称したそうです。)
同じ物質を意味する言葉が二つあるのは、この物質を発見した人、発見された場所や経緯が異なるためです。アドレナリンを発見したのは、1900年に日本人の高峰氏と上中氏で、牛の副腎から血圧を上昇させる物質を発見し、それをアドレナリンと名付けました。
この頃は、同時期に同じような研究が各地で盛んに行われており、別の場所でも豚や羊を使ってアドレナリンと同じ物質が発見され、その一つがエピネフリンと名付けられました。エピネフリンを発見したのはアメリカ人の研究者で、アメリカでは自国の人間の発明として、エピネフリンという言葉を使っているようです。
いずれにしても、この二つの言葉は全く同じ物質を表すということになります。
アドレナリンの効果と作用
アドレナリンは交感神経を興奮させるホルモンで、動物が生命の危機に瀕した時に、『闘争か逃走か(fight or flight)』を即時に実行するために分泌されます。現代人の場合は生命の危機に瀕することは稀ですが、日常生活の中でも運動やトレーニングで身体を酷使する際や何らかのストレスを受けて精神が昂ぶるような場面ではアドレナリンが分泌されています。
- 主な効果と作用
- 筋肉の収縮力をアップ、血管拡張、消化器官の機能を制限、血糖値上昇、呼吸数の上昇、脈拍上昇、血圧上昇、気道拡大、瞳孔散大、精神覚醒、痛覚の遮断
詳しくは『アドレナリンの効果と副作用』をご覧ください。
アドレナリンの基本的な作用は、筋力や酸素運搬を速度アップさせることで身体の運動能力を向上させたり、精神の覚醒による集中力アップや頭の回転を速くすることです。こうした作用を上手く利用することで、スポーツ、格闘技などのパフォーマンス向上、また学力のアップにも繋がります。しかし、難点としてアドレナリンは自分の意志で自由に分泌させることは出来ません。
アドレナリンとストレスの関係
アドレナリンはストレスに反応して分泌されるホルモンです。現代人にとってのストレスの原因は、人間関係や仕事、学業、貧困などが主だったものです。
現代人にとって、ストレスとセットであるアドレナリンは、イライラ、不安、恐怖、焦り、緊張など、ネガティブな感情を引き起こす物質であり、また、興奮して怒ったり、暴れるときに分泌されるなど、決して良いイメージのある物質ではないのかもしれません。
しかし、生活の中でストレスは必ず付いて回るもので、全てのストレスを回避することは不可能です。であれば、ストレスとうまく付き合うこと、更にはストレスを味方に付けて、アドレナリンの良い作用を意図的に生み出せば、身体パフォーマンスを引き出したり、集中力や行動力を高めて出世するという、ポジティブなストレスの使い方も出来るかも知れません。
ストレスとアドレナリンについて詳しくはコチラをご覧ください。
アドレナリンとノルアドレナリンの違い
興奮した時に分泌される「アドレナリン」は映画のタイトルにも使われるほど広く一般に知られた言葉ですが、似たような働きをしていて、名前も似ているノルアドレナリンとアドレナリンにはどういった違いがあるでしょうか。
アドレナリンとノルアドレナリンはドーパミンと共にカテコールアミンという化学物質系に属し、チロシンというアミノ酸が原料になっています。
ノルアドレナリンは副腎以外にも脳の中枢神経系や交感神経系の末端でも分泌されるのに対し、アドレナリンの場合は、アドレナリンの分泌に必要な『フェニルエタノールアミン-N-メチルトランスフェラーゼ(PNMT)』という酵素が副腎髄質にほとんど分布しているため、アドレナリンは主に副腎髄質で分泌されます。また、脳の中枢神経系でも若干分泌されます。
- 二つの物質の大雑把な違いとしては、
- ・アドレナリンは交感神経系に作用して、運動能力を向上させる。
・ノルアドレナリンは精神にも作用して、感情の昂ぶりなどを生み出す
という点です。
また、アドレナリンやノルアドレナリンの物質の生成は、ドーパミン→ノルアドレナリン→アドレナリンの順序で生成されるため、
『ノルアドレナリンが分泌されることでアドレナリンも分泌される』
または、
『アドレナリンの分泌にはノルアドレナリンが必要』
という関係があります。
詳しくは『アドレナリンとノルアドレナリンの違い』をごらんください。
アドレナリンの過剰分泌
アドレナリンは心身を興奮させるホルモンです。分泌することで運動能力や集中力を向上させたり、物事へのやる気を生み出して学習能力の向上や仕事などでのリーダーシップを発揮しやすい作用がある反面、攻撃的になり、怒りっぽくなったり、すぐにキレたりしやすくなります。
また、血圧や脈拍が上昇することで高血圧症や心疾患、血糖値を上げることで糖尿病、交感神経系の興奮によって副交感神経系が抑制されることで不眠症など、様々な疾患に繋がる恐れがあります。
また、アドレナリンが分泌されて交感神経系が常に興奮するような状態になると、自律神経のバランスが崩れ、自律神経失調症の症状が現れやすくなります。
このコーナーでは、アドレナリンについての話題を全3ページで紹介しています。
★次のページでは『アドレナリンの効果と副作用』をご紹介します。
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