疲労とは、生命を維持する上で重要な脳からの信号であり、痛みや発熱と並んで『三大生体アラーム』と呼ばれます。疲労は過労(オーバーワーク)や人間関係のストレスと深く関わりがあり、ストレスから来る疲労とうまく付き合っていくには、ストレスを抑制するセロトニンが重要となります。
疲労とは
疲労とは脳や身体が感じる一種の危険信号。デスクワークや運動などで脳や身体が激しく活動すると、血糖や酸素などエネルギーを大量に消費します。エネルギーを消費し続けると、やがてエネルギー不足になり、脳が疲労という信号を出して、活動の中止や休息を促すのです。
疲労を感じる原因は、活動によりエネルギー不足が起こったとき以外にも、ストレス、意欲や興味の有無、病気によるものなどがあります。
デスクワークが中心の現代社会で特に多いのは、労働や運動などによる肉体的な疲労よりも、過労(オーバーワーク)や人間関係の中で生じる『精神的なストレス』によって起こる、『脳の疲労』です。
つまり多くの現代人が抱える疲労とは、ストレスが主な原因となります。
疲労の症状
脳や体が疲労しているときには以下のような症状が現れやすくなります。
眠気、食欲の低下、目の疲れ、肩や腰など身体の痛み、肌荒れ、倦怠感、無気力、無関心、意欲の低下、集中力や判断力の低下、免疫力の低下
疲労を生み出す物質
運動や仕事などにより脳や体がストレスを受けると分泌される物質がいくつかあります。これはストレスホルモンと呼ばれる物質で、副腎で生成されるアドレナリン、ノルアドレナリン、コルチゾールなどがそれに当ります。
ストレスホルモンが分泌されるような激しいストレス(運動や精神的興奮、生命の危険など)をすると、ストレスに対抗するため、交感神経系が刺激されて脈拍は速まり、血圧は上がり、呼吸は荒く、消化や吸収、排泄などは制限されます。この状態は体に大きな負担がかかるため、交感神経系が強く刺激されるような激しい運動をすると、肉体的な疲労がすぐにピークに達して動けなくなります。
また、特に現代で多い症状として、慢性的な過労(オーバーワーク)やストレスによって、ストレスホルモンが常に分泌され続けるような生活を続けると、ストレスホルモンを生成する副腎が疲弊して、『副腎疲労』という慢性症状を起こしてしまうケースが増えています。
副腎疲労に陥ると、疲れやすい、不眠、寝付きが悪い、眠りが浅い、日中の倦怠感、集中力の欠如、など様々な悪影響が生じます。
セロトニンとは
セロトニンは脳内で働く神経伝達物質のひとつで、いらいら、怒り、不安、恐怖、衝動、攻撃性などのネガティブな感情をコントロールし、心の安定を保つ働きをしています。
逆にセロトニンが不足すると、ネガティブな感情の抑制が効かなくなり、すぐにカーっとなって怒りっぽくなったり、小さなことでイライラしたりクヨクヨしたり、すぐに泣き出したり、恐怖を感じると激しく叫んだりと、感情が暴走しやすくなってしまいます。
セロトニンは疲労を抑える
ネガティブな感情の暴走は、ストレスの増加と脳の疲労につながります。従って、セロトニンはストレスを抑制し、脳の疲労を抑える働きをしている、抗ストレス作用を持つ物質なのです。
例えば同じ仕事や勉強をするときでも、セロトニンが分泌されていると、意欲や集中力が持続し、脳が疲れを感じにくくなるため、作業に没頭することができるため、作業の効率も上がります。
逆に、セロトニンが不足しているときは、いらいらしたり注意力が散漫で集中できず、すぐに作業に飽きてしまい、脳は疲労を感じやすくなります。
このようにセロトニンが分泌されていれば、脳は疲労というストレスに強くなるのです。
疲労の原因物質
脳が運動やストレスで疲労を感じる主な原因は、交感神経系が刺激された事によって起こる、脈拍増加、血圧上昇などが引き起こす体内の活動エネルギーの不足です。
一方、筋肉などで起こる物理的な疲労の原因として、運動やストレスによって発生する『疲労の原因物質』の存在が研究されています。
疲労の原因物質とは、以前は『乳酸説』が有名でした。運動や仕事をすると体に乳酸が溜まっていき、それが疲労を引き起こす、という説です。
しかし、現代ではこの乳酸説は主流ではなくなり、代わりに疲労の原因物質となるのが、『ファティーグ・ファクター(FF)』です。FFは、運動時などに交感神経系が興奮すると、体内で酸素が大量に消費されるときに同時に生じる、『活性酸素』を依代として発生する物質で、筋肉や細胞の働きを低下させて疲労感を生み出すと言われています。
セロトニンは活性酸素とFFの発生による疲労の発生には直接は作用しませんが、セロトニンから生合成されるメラトニンが活性酸素を除去する力を持っているため、セロトニンの有無がメラトニンの生合成にも影響しているという点から、
セロトニンが充足→メラトニンの分泌促進→活性素除去→疲労回復
という図式が成り立つため、セロトニンは間接的に活性酸素やFFによる疲労の発生を抑制していることになります。
また、メラトニンが分泌されるのは主に睡眠前から睡眠中であるため、睡眠は疲労回復に最も役立ちます。逆に睡眠が不足すれば、疲労やストレスが蓄積しやすくなってしまうのです。
photo credit: tommy japan Vietnam US Troops,Dong Xoai 1965 (AP Photo/Steve Stibbens) (license)
- 参考文献
- 厚生労働省 e-ヘルスネット – セロトニン
- 国際生命情報科学会誌 – セロトニン神経活性化の臨床的評価:脳波α2成分の発現
- NCBI – PMID:1752859
- NCBI – PMID:25108244
- Wikipedia – セロトニン