セロトニンには緊張やあがり症などの症状を抑える作用があります。人前での発表や面接の前などに緊張してしまい、イライラしたり強い不安を感じるのは、直接的には『ノルアドレナリン』の分泌が増えるためですが、セロトニンが不足していると、ノルアドレナリンの作用が強くなり、イライラや不安がより強く感じやすくなります。
あがり症とは
脳が不安や緊張を感じたときに起こる『あがり』は、『ストレス』を感じたとき交感神経系が興奮し、脳内で神経伝達物質のノルアドレナリンの分泌が増加することで起こります。
ノルアドレナリンは何らかのストレスに反応して分泌が増加し、交感神経系を刺激して脈拍を速めたり、血圧を上昇させるなど、ストレスへ心身が対抗できるように働きます。
▼緊張したときの反応
心拍数増加/血圧上昇/体温上昇/体が強張る/声が震える/どもる/手足が震える/赤面/発汗/口が渇く/頭が真っ白になる/めまいや立ちくらみ/食欲低下/吐き気/不安/恐怖/イライラ/興奮
※反応には個人差があります
ノルアドレナリンは、ストレスに対する恐怖や不安と言った精神的な反応を生み出します。恐怖や不安などの精神作用が人よりも極端に強く現れてしまうことが、『あがり症』の原因の一つであると考えられます。あがり症は、対人恐怖症や社交不安障害など、症状により様々な病名で呼ばれることがあります。
しかし、本来は緊張や「あがり」そのものは決して悪ではありません。
そもそも、不安イライラなどと言ったストレスへの反応とは、生物が生きていくための生存本能によって起こるもので、例えばサバンナで生きる野生動物が「ストレス=生命の脅威」に対して、戦うか逃げるかを瞬時に判断することは、その生物が生き残る上で最も基本的で、最も重要なことです。
ストレスに遭遇したとき、緊張したり不安を感じたりするのは、脳が正常に働いている証拠であり、これ自体は全くおかしなことではないのです。
ところが、人間の場合、とりわけ日本人の場合は、野生動物とは違って、生命が危険に晒されるという状況は滅多に無いわけで、普通の社会生活を送るうえで、いわゆる『あがり症』と言われるほど過度の「あがり」は、あまり好ましくない反応であります。
ストレスへの過剰反応とも言えるあがり症を克服する上で重要なのが、脳内でのノルアドレナリンやセロトニンの働きです。
あがり症の原因
あがり症で不安や恐怖と言った感情を過度に増幅してしまう原因は、人によって千差万別です。
過去の失敗や、恐怖体験に基づくもの、失敗したときの影響を想像して起こるあがり、慣れないことや初めてすること、未知の体験に対する恐怖など、様々な心理的なストレスが交感神経系の興奮を呼びます。
こうしたあがり症を克服することは容易ではなく、治療法も山ほどありますが、万人が確実に治るような方法はありません。
先にも書いた通り、「あがり」が起こること自体は、脳の正常な働きによるものですので、その性質を理解して、不安や恐怖を無理に打ち消したりするのではなく、どのように向き合っていくかを考えるほうが得策であるように思います。
セロトニンはあがりを緩和する
脳内で働く神経伝達物質であるセロトニンには、ストレスや緊張から来るあがりの症状を緩和する働きが期待できます。
セロトニンやノルアドレナリン、ドーパミンと言った神経伝達物質は相互に影響を及ぼし合う性質を持ちます。なかでもセロトニンは、ノルアドレナリンやドーパミンが過剰な働きをしないように、バランスを保つ働きをする物質で、精神の安定や心のバランスを整える作用を持ちます。
▼あがりの緩和
セロトニンは、ストレス時にノルアドレナリンがもたらす、不安、恐怖、イライラ、怒りなどのいわゆるネガティブな精神作用を抑制し、昂ぶった精神を沈静化させる心身をリラックスさせる働きがあります。
セロトニンが正常に働くことで、ノルアドレナリンが暴走したときに起こる過度の緊張やあがり症のような、様々な弊害を、改善したり予防することが期待できるのです。
あがり症の人はセロトニンが不足している可能性がある
不安や恐怖と言った感情を緩和する働きをするセロトニン。しかし、セロトニンが不足していると、不安や恐怖などのマイナスな感情が強く現れやすくなることが分かっています。
つまり、日頃から緊張を感じやすかったり、極度のあがり症の人は、脳内のセロトニン神経が弱っていたり、脳内のセロトニンが不足している可能性があるのです。
セロトニンが不足する最も大きな原因はストレスです。学校や家庭、職場などで日頃から何らかのストレスを抱えていると、慢性的なセロトニン不足に陥り、あがり症の症状も悪化しやすくなる可能性があります。
▼まずはストレスの解消から始めてみる
何らかのストレスが原因で、緊張しやすかったりあがりを起こしやすいのであれば、あがり症を克服するアプローチの一つとして、あがり症の症状だけにスポットライトを当てるのではなく、日常生活に潜むストレスを特定し、そのストレスを解消することでセロトニン不足を解消することであがり症の症状を改善していく、というやり方も考えられます。
▼心頭滅却すれば
「心頭滅却すれば火もまた涼し」と言う仏教の言葉があります。辛いことや苦しいことも、心の持ち方や考え方次第で克服できるという考え方です。セロトニンはまさにこの、心頭を滅却させて火を涼しいとさえ感じさせてくれる物質です。
極論を言えば、禅僧のように日頃からの修行でセロトニン神経を鍛えておけば、緊張やあがり症は克服できるのかもしれません。もちろん、一般の人にはそうした修行は難しいですから、生活の中でセロトニン神経を鍛える工夫が必要になります。
セロトニン神経を鍛えるには『セロトニンを増やす方法』をご覧ください。
セロトニン不足は精神疾患につながる場合も
セロトニンの不足は、あがり症の症状が現れやすいだけでなく、うつ病や不眠症のような様々な精神疾患の原因としても挙げられます。
生活の中で、強い緊張やあがりを経験することが多い人は、そうした一つ一つの体験そのものが強いストレスとなってセロトニン神経を疲弊させてしまうことが考えられますので、気分の落ち込みや寝付きが悪くなるなどの何らかの精神的な不調や、微熱、頭痛、肩こりなど身体的な変調を感じた場合は、早めに専門医に相談して頂ければと思います。
セロトニンが不足したときの症状は『セロトニン不足の原因と症状』をご覧ください。
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