起立性調節障害の発症は、いくつかの点で『』と関係があります。人の腸は自律神経系によって支配されており、自律神経系の働き乱れると『腸内環境が悪化』することがわかっています。特に、起立性調節障害とも深い関係があるストレスは、腸では『過敏性腸症候群』という症状を引き起こします。

腸と自律神経系の関係

小腸や大腸からなる腸は、口から入った食物を消化・吸収する場所です。また吸収しきれずに残った食べ滓は、便として排泄されます。こうした食物の消化・吸収や、排泄は、自律神経系の働きによって行われる、不随意運動です。

消化吸収
自律神経系の働きが乱れると、腸が担っている消化や吸収の能力が低下して、栄養を十分に消化しきれず消化不良を起こしたり、吸収出来ずにそのまま腸内に食物が溜まって、便秘を起こしたりします。

ぜん動運動
消化と吸収以外で腸が持つ、便の排泄作用も、自律神経系の影響を受けます。便を排出しようとする腸の働きは、大腸の周りにある筋肉が収縮することで行われ、そうした筋肉の収縮を『ぜん動運動』と言います。

腸のぜん動運動は、腸内に存在するセロトニンという物質が筋肉に作用することで行われています。セロトニンは腸内だけでなく、血中や脳内にも存在し、自律神経系とは密接な関わりを持つ物質です。

自律神経系の働きが乱れると、セロトニンの分泌量や働きも乱れ、腸ではぜん動運動に異常が起こりやすくなります。ぜん動運動が行われにくくなると便秘、ぜん動運動が過剰に行われると下痢を起こしやすくなります。

起立性調節障害を起こすと腸内環境が悪化する理由

胃や腸などの消化器官の働きは自律神経系によって支配されているため、自律神経系が弱ると、腸の機能が正常に働かなくなり、便秘や下痢を起こしやすくなります。

起立性調節障害も自律神経系の働きが乱れることが原因で発症するため、起立性調節障害の症状が現れる人は、同時に腸内環境が悪化しやすいというわけです。

特に、ストレスが原因で自律神経系が乱れている人は、『過敏性腸症候群(IBS)』を起こしやすくなります。

過敏性腸症候群とは

過敏性腸症候群はストレスが原因で腸のぜん動運動に異常が起こり、腹痛や便秘や下痢を繰り返す病気です。

過敏性腸症候群は腸炎や潰瘍と異なり、腸自体にキズや炎症があるわけではなく、検査をしても見た目上は異常が見つからないことが多いにも関わらず、便秘や下痢、腹痛などが頻発します。過敏性腸症候群で便秘や下痢の頻発は、自律神経系の乱れとストレスがきっかけで起こると考えられています。

自律神経系がストレスによって乱れた結果、腸内のぜん動運動に関与する『セロトニン』の分泌異常が起こって、セロトニンが過剰に分泌されたり、分泌量が激減したりすることで、便秘や下痢、腹痛などを起こすことが推測されています。尚、血中のセロトニンは偏頭痛を引き起こす『疼痛物質』としても知られています。

セロトニンはストレスに反応する
セロトニンはストレスに敏感に反応する物質で、脳内ではストレスを抑える抗ストレス作用を発揮し、心の安定を保つ上で重要な神経伝達物質として働きます。脳が不安や緊張を感じるとセロトニンが分泌されて、ストレスを抑える働きをします。

ところが、自律神経系の働きが乱れると、セロトニンの抗ストレス作用が正常に発揮されなくなり、過剰に分泌されたり、分泌されなくなったりすることで、腸の働きに異常が現れるのです。

例えば、満員電車に乗ったときや、テスト前の緊張などでお腹がゆるくなったり痛くなることがあります。過敏性腸症候群とは、このような不安や緊張と言ったストレスが引き金となり腹痛や下痢が起こる病気です。

詳しくは『腸内のセロトニンとIBS(過敏性腸症候群)』をご覧ください。

起立性調節障害も過敏性腸症候群も自律神経失調症の一つ

起立性調節障害も過敏性腸症候群も自律神経系の働きが乱れることで症状が起こるという点で共通しています。

実はこれらは共に、自律神経失調症の症状の一つで、二つの障害は共に大きな分類上は自律神経系のバランスが崩れることで起こるとされる、『自律神経失調症』の一つなのです。

女性のほうが起こりやすい
過敏性腸症候群は、男女では男性よりも女性のほうが症状が起こりやすいことが明らかになっており、これも起立性調節障害と共通しています。

共にストレスが関係
過敏性腸症候群は起立性調節障害と同じくストレスがきっかけとなって発症することが多い点も共通しています。

腸内環境の悪化はアレルギーの原因にもなる

自律神経系の乱れから、腸内環境が悪化すると、アトピー性皮膚炎、花粉症、喘息などアレルギーを起こしやすいと言われています。

アレルギーを起こしやすくなる原因は、腸内環境の悪化により、腸内に生息する腸内細菌が減少することや、菌種の変化(腸内フローラの悪化)が起こるためです。

腸内細菌は非常に多くの種類がいますが、中にはアレルギーを抑えたり、免疫力を上げたり、脂肪の分解を促進するような有益な菌も多く存在しており、そうした腸内細菌の有益な作用を得るための『菌活(プロバイオティクス、プレバイオティクスなど)』が、最近注目を浴びています。

自律神経系の乱れに伴う腸内環境の悪化によって、アレルギーを抑えてくれていた菌が減少することで、それまで抑えられていたアレルギー症状が現れやすくなると言われています。

起立性調節障害の症状を起こす子どもは何らかのアレルギー疾患を抱えている場合が多いことからも、起立性調節障害と腸の関係が垣間見れます。

photo credit: Hey Paul Studios