肌の健康を保つ上で欠かせないナイアシンと、夜の睡眠には意外な接点があります。寝付きが悪くなったり眠りが浅くなるといった不眠症状の原因は様々ありますが、その一つがナイアシンの不足です。眠りとはなんの関係もなさそうなナイアシンが不眠症状に関係している理由をご紹介します。
目次
ナイアシン不足で不眠が起こる理由
そもそも、ナイアシンは皮膚や神経の健康を保ったり、脂質や糖質、タンパク質と言った栄養素の代謝を促進する働きをするビタミンB群の一種です。ナイアシンと睡眠には、直接の関わりはありません。
ところが、ナイアシンが合成されるまでの道程を少しさかのぼってみると、その上流でナイアシンと睡眠との関わりが見えてきます。
必須アミノ酸『トリプトファン』が鍵
ナイアシンと睡眠の関係を読み解く上で欠かせない物質が、必須アミノ酸『トリプトファン』です。トリプトファンは食べ物のタンパク質に含まれているアミノ酸の一種で、体内では合成できない必須アミノ酸(合成できないため食事で摂取する必要がある。)でもあります。
トリプトファンからナイアシンとメラトニンが作られる
トリプトファンはナイアシンを合成するための原材料として使用されます。同時に、トリプトファンは別の物質の原材料でもあります。それは睡眠ホルモン『メラトニン』です。
▼トリプトファンの利用イメージ
トリプトファン→ナイアシン
↓
セロトニン→メラトニン
ナイアシンとメラトニンはトリプトファンという共通の原材料から作られる物質なのです。
原材料が競合しているがナイアシン優位
ナイアシンとメラトニンは共にトリプトファンを原材料に作られる物質です。つまり二つの物質は原材料を競合する存在にあるのです。
そのため、いずれかの物質がトリプトファンを独り占めするようなことが起こると、もう一方の物質はトリプトファンが足りずに、十分に合成できないという事態が起こります。
競合するナイアシンとメラトニンですが、実はナイアシンのほうが優位な立場にあります。それはトリプトファンが体内に入ってから、代謝される順序が関係しています。
順を追うと以下のような流れになります。
- 食べ物に含まれているトリプトファンは、胃や腸で消化され、腸内細菌の助けを借りるなどして、腸内で分解されます。分解されたトリプトファンは肝臓へと送られ、肝臓でナイアシンへと代謝されます。
- 肝臓に送られたトリプトファンのうち、ナイアシンに代謝されなかったトリプトファン(つまり余ったトリプトファン)は血液中から脳内へと送られます。
- 脳内に到達したトリプトファンはセロトニンへと合成され、セロトニンの一部がメラトニンへと合成されます。こうしてようやくメラトニンが合成されます。
見比べるとナイアシンはメラトニンよりもかなり早い段階で代謝されていることがわかります。また、ナイアシンが合成されて、残ったトリプトファンが脳内へと送られる、という点もポイントです。
二つの物質の関係を整理すると、ナイアシンはメラトニンよりもトリプトファンを利用しやすい立場にあり、メラトニンはあまったトリプトファンによって作られているというわけです。
つまり、ナイアシンとメラトニンの関係は、50:50の平等な立場ではなく、ナイアシン優位の関係といえます。
※トリプトファンの代謝経路は複雑で様々なものがありますが、理解しやすいよう簡略化しています。
ナイアシンが大量消費されるとトリプトファンが不足する
ナイアシンと睡眠ホルモンメラトニンの関係は、ナイアシンが優位な立場にあります。そのため、ナイアシンが大量に消費されると、トリプトファンはナイアシン用にばかり使われてしまい、メラトニン用のトリプトファンが不足してしまうような事態が起こる場合があります。
これは数字で表すと以下のようなイメージになります。
▼通常時
トリプトファン100→ナイアシン70:メラトニン30
▼ナイアシン大量消費時
トリプトファン100→ナイアシン90:メラトニン10
通常時はナイアシン代謝後に30ほど残っているはずのメラトニン用のトリプトファンが、ナイアシンが大量に消費されたことによって、ナイアシンの大量消費を補うために余計に消費されてしまうため、メラトニン用のトリプトファンは10しか残らず、通常時よりも不足してしまっています。
メラトニンは原材料となるトリプトファンが不足すると十分な量を作り出すことができなくなるため、メラトニン不足によって夜になっても寝付きが悪い、眠りが浅いなど、睡眠の質に悪影響を及ぼしてしまうのです。
これがナイアシンが睡眠に影響を与える理由です。
ナイアシンが不足する原因
ナイアシンが睡眠に影響を与える要因の一つとなっている一方、現代の日本ではよほどのことが無ければナイアシン不足は起こりません。その理由は、日本の食糧事情が極めて安定しているためです。ナイアシンやメラトニン、そしてその原料となるトリプトファンは、食事によって摂取されていますが、日本人の平均的な食生活では、こうした物質は不足しにくいのです。
しかし、そんな日本でもナイアシンの不足や、それによってメラトニン不足までもが起こることがあります。
▼大量の飲酒でナイアシンが大量消費される
現代社会でナイアシン不足を起こしやすい一番の要因が大量の飲酒です。
ナイアシンは、お酒を飲んだときに合成される『アセトアルデヒド』という毒素を分解するために使用されます。つまり、お酒を大量に飲めば飲むほど、大量のアセトアルデヒドが発生し、それを分解するためにナイアシンも大量に消費されるのです。
そ して、ナイアシンが大量に消費されると、トリプトファンも大量に消費されるため、メラトニン用に脳内へと送られるトリプトファンは不足し、睡眠への悪影響が起こるのです。
当然、一日や二日の短期間の大量飲酒よりも、長期間に渡って大量飲酒を習慣化するほうがナイアシン不足とメラトニン不足は深刻化しますから、飲酒は適量を守って楽しみましょう。
また、お酒を飲むときのツマミも、焼き魚や焼き鳥、枝豆や冷奴などの豆類をチョイスするとトリプトファンの補給に役立ちます。
参考:『トリプトファンを豊富に含む食材』
▼極端なダイエットや偏食
もう一つ、ナイアシンが不足しやすいケースが極端なダイエットや偏食です。これは特に肉や魚などを極端に制限するようなダイエットをすると起こりやすいかもしれません。
ナイアシンの原料となるトリプトファンは肉や魚などのタンパク質に含まれている物質ですから、タンパク質を極端に制限するようなダイエットや、好き嫌いによる偏食をしてしまうと、トリプトファンそのものが不足してしまう可能性があります。
トリプトファンは豆類や穀類などにも含まれていますから、カロリー制限などをする場合で、どうしても肉や魚を食べられない場合は、豆類などでしっかりタンパク質を補って、栄養バランスに偏りが出ないように気をつけると良いでしょう。
まとめ
ナイアシンと睡眠の関係をまとめると次のようになります。
- ナイアシンの原材料はトリプトファン
- 睡眠ホルモンであるメラトニンの原材料もトリプトファン
- ナイアシンが大量消費されると、メラトニン用のトリプトファンが不足
- メラトニンの合成量が減ると睡眠に悪影響が生じる
- ナイアシン不足が起こる原因は飲酒とダイエット
ダイエットをしているときに寝付きが悪くなったり眠りが浅いと感じる場合は、ご紹介したようにナイアシン不足によって起こるメラトニン不足が懸念されます。ナイアシンの不足は、睡眠への影響だけでなく肌荒れやうつ病など気分障害の原因にもなりますから、早急に食事バランスを見直してみましょう。
また、ナイアシンは薬局で手に入るサプリメントなどでも補給できますから、ダイエットや飲酒で肌荒れや口内炎が起こったときはナイアシンを補給してみると良いかもしれません。