起立性調節障害とうつ病には、朝起きられず夜は眠れないと言った多くの共通点があると同時に、病気を発症しやすい年齢層や発症する原因に明確な違いも存在します。二つの病気の違いと共通点をご紹介します。
起立性調節障害とうつ病の違い
▼病気の特徴
・起立性調節障害は、『主に身体症状』が現れる身体の病気
・うつ病は、『主に精神的な症状』が現れる心の病気
▼発症しやすい年齢
・起立性調節障害は、思春期から高校生ぐらいの学生に多く、成人後は病状が改善することが多い
・うつ病は、成人前の発症割合は低く、働き盛りの世代(30代~50代に多い)に多い
▼日内の症状変化
・起立性調節障害は、朝や午前中に特に症状が重く、夕方から夜になるにつれて、症状が軽くなることが多い。朝起きられず、結果的に学校や仕事を休んでしまう場合が多いが、行きたくないわけではなく、行きたくても行けない人が多い。
・うつ病の場合は、朝に症状が重く夜になると軽くなるという人も多いが、個人差が大きく、特に精神的な落ち込みや不安といった症状は、一日を通して強く感じる状態が続くことが多い。学校や職場でのストレスが病気の原因であることも多く、学校や職場に行きたがらない場合が多い。
▼ストレスの関与
・起立性調節障害は、ストレスによって症状が悪化する場合がありますが、根本的な原因は自律神経系や循環器系の未発達などの身体的な機能障害であると考えられています。
・うつ病は強いストレスが引き金となって発症することが多い病気です。 つまり、病気を発症する直接の原因がストレスであるケースが多いのが特徴です。
いずれの病気も『ストレスが関与していることが多い』という点では共通していますが、ストレス自体が病気の根本的な原因となっている(うつ病)か、そうでない(起立性調節障害)かという違いがあります。
起立性調節障害とうつ病の共通点
▼病気を発症したとき自律神経系が乱れていることが多い
起立性調節障害は、思春期の急激な体の成長に、自律神経系や循環器系の成長が追いつかないことで、自律神経系が十分に機能することが出来ないために症状が現れる、体の機能障害とも言える病気です。
そのため、自律神経系や循環器系の成長が体の大きさに追いつく成人頃には、自然と症状が改善していく場合が多くあります。
うつ病の場合、何らかのストレスによって、脳の認知機能や神経系の働きが弱くなる事によって、自律神経系と脳機能の間の連携がうまく行かなくなることで、自律神経系の働きに乱れが生じることが考えられます。
また、自律神経系の働きを支えている、ノルアドレナリンやセロトニンと言った神経伝達物質がストレスによって消費されて枯渇してしまうことも、自律神経系のバランスを乱す一因であると考えられます。
いずれの病気も結果として、自律神経系が乱れた状態になるという点では共通していますが、そこに至るまでの過程では異なる原因が介在していると考えられます。
▼男性より女性が発症しやすい
起立性調節障害は思春期の子どもに発症しやすく、特に男子よりも女子が発症しやすいというデータがあり、発症率は[男子1:女子1.5~2]と、1.5倍から2倍程度の差があるとされます。
女性が起立性調節障害を発症しやすい原因のひとつは、ホルモンの影響が考えられます。思春期を迎えた女性は、月経の開始によりホルモンバランスに著しい乱れが生じることで、自律神経系の働きにも影響が生じて、起立性調節障害を起こしやすいと考えられます。
また、月経により鉄分が不足しやすく貧血や低血圧を起こしやすいという点も、女性が起立性調節障害を起こしやすい原因として挙げられます。
うつ病は、脳の機能低下などによって、気分の落ち込みや意欲の減退と言った症状が現れる病気ですが、こうした症状が現れる原因の一つとして、脳内のセロトニン神経の減弱や、セロトニンの不足があると言われています。
女性は、脳内で産生されるセロトニンの量が男性の半分程度であるとされ、元々脳内のセロトニンが不足しやすいことが、女性のほうが不安や恐怖、痛みなどを感じやすかったり、女性特有のヒステリーなどを起こしやすい理由として考えられています。
▼性格が真面目で几帳面な人がかかりやすいと言われている
起立性調節障害もうつ病も、おとなしく内向的、几帳面、真面目、完璧主義と言った性格を持った人がなりやすい傾向があると言われています。
こうした性格が病気に関わる理由として考えられるのは、いずれの性格も『ストレス』を感じやすいという特徴が共通しているということがあります。
几帳面でまじめな人は、与えられた仕事や責任を出来る限り果たそうとしますが、それが達成できないこと、うまくいかないことが大きなストレスになることがあります。大雑把な性格であれば同じ結果でもストレスはあまり感じないでしょう。
こうした性格の人々は生活の中で様々なこと、しかも小さなことがストレスとして蓄積しやすい傾向があります。特に内向的でおとなしい人は、ストレスを抱えていてもそれを家族や友人、学校の先生など周囲にうまく伝えることが出来ず、自分の中に溜め込んでしまいがちで、ストレスが余計に悪化してしまうことが考えられます。
▼共通する症状
朝起きられない/夜眠れない/やる気が出ない/疲れやすい/集中力がない
二つの病気では、上記のような代表的な症状にいくつかの共通点が見られるため、専門家でもどちらの病気を発症しているのかを取り違える可能性があります。治療を受けても、思うように症状が改善しない場合は、別の病気である可能性も考慮して、他の医師の診察を受けるなどの判断も必要になります。
起立性調節障害発症後にうつ病を発症することがあり得る
起立性調節障害とうつ病は、いくつかの共通点はあっても、異なる病気であるという点は明確です。しかし、起立性調節障害とうつ病は、『ストレス』という共通の原因によって強く関連付けられています。
起立性調節障害を発症した人が、発症する過程や発症後の生活の中で様々なストレスを抱えていくことで、最終的にはうつ病を引き起こす可能性は十分に考えられます。
特に起立性調節障害を起こしやすい思春期の子どもたちは、傷つきやすく、また内に閉じこもりやすいため、生活面だけでなく、心のケアを通した周囲の理解やサポートが、子どもが病気から回復していく過程で特に重要であると言えます。
photo credit: 6th ICPPMH (license)